第14章 Ⓡ◆路地裏イチャアンin神田【企画】
「───レオったら!」
一歩踏み込めば、狭く切り取られた青空は陽の光を通さない。
左右囲まれた高い煉瓦の壁に、真っ先に飛び込んだ猫の真っ白な毛並みも陰る。
優雅な身のこなしで駆ける四足歩行の獣は、狭い路地裏の奥へと飛び込んだ。
「もう、よく見えないよ…レオ、尻尾掴んで悪かったって」
「シャー」
「そんな怒るなよ」
暗闇で光る獣の瞳。
そんなに尻尾を掴まれたことが憤慨だったのかと少年は肩を下げたが、獣の目は少年ではなく路地裏の奥に向けられていた。
「フシャア!」
「レオ?」
毛並みを逆立て威嚇する先を、少年の目が追う。
明るい広場の陽の光で慣れていない暗闇に、必死に目を凝らした。
狭く細い路地の奥。
左右煉瓦の壁に阻まれた、行き止まりとなっている袋小路。
ガサリと何かが音を立てた。
「っ!?……あ、なんだ…」
びくりと体を跳ねさせながらも、やがて暗闇に慣れてきた少年の目が捉えたのは、何処からか迷い込んだ新聞の切れ端だった。
風にでも吹かれて飛ばされたのだろう、暗い地面擦れ擦れを流れるように滑っている。
「もー吃驚させるなよ」
取り上げた新聞をまじまじと見れば、何かの事件が載っているようだったが光の遮断された路地裏ではよく見えない。
眉間に皺を寄せて新聞の写真に顔を近付ければ、微かに鼻に突いた。
「ん?」
路地裏のきな臭さとは違う、嗅ぎ覚えのない、しかし触れたことのある臭い。
「ん〜なんだっけコレ…」
首を捻って考える。
身に覚えはあるはずだ。
鉄の錆び付いたような、酔いを引き起こすような、胸焼けするような、そんな臭い。
スンスンと嗅いでいた新聞紙の隅が、黒く染まっているのを見つけた時。
「…あ」
ようやく少年は理解した。
それは人であれば誰しもが持っている、巡る命の体液。
「これ、血の臭──」
「ピギャッ!」
「うわッ!?」
腹部に衝撃を受けて少年の思考は遮断された。
見下ろせば、先程までの憤慨っぷりは何処へやら。
尻尾を脚の間に丸め込み身を縮ませ怯えた獣が、服に爪を立てぶるぶると震えていた。