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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第14章 Ⓡ◆路地裏イチャアンin神田【企画】



吸い付き舌を這わせれば、汗の味がする。
鼻腔に充満する硝煙と血の臭いが、更に強く頭を揺さ振ってくるようだ。
押し付けられていた背を離し、逆に目の前の体を壁へと押し付ける。
動作で被っていたフードは乱れ、影を落としていた雪の目元が露わとなった。



「待…って、本当ッ」



見慣れたファインダーのマントに、嗅ぎ慣れた奮戦の臭い。
なのに肌蹴て覗く薄い肌も羞恥が混じった瞳も、探索班として傍に就く雪からは一切感じられなかったものだ。
普段から女を全面的に押し出していないが、仕事中は特に徹底していた。
そんな彼女の見慣れているはずの見慣れない様に、どくりと血が沸く。



「此処、外ッ今、仕事中ッこんな所誰かに見つかったら…!」

「声がでけぇ」

「んむぅッ」



それこそ聴覚の優れたマリには見つかる危険性もあると言うのに。
と告げる代わりに己の口で騒ぐ口を塞げば、騒ぐ体が竦んだ。
柔い胴体に片腕を回して、易々と路地裏の奥に引き込む。
雪の体越しに見えた長方形の光の出入口が遠ざかれば、まるで別世界のように見えた。

光の先の大通りを忙しなく行き交う人々は、あちらの世界。
煉瓦の繋ぎ目さえはっきりと見えない暗く狭い細道が、こちらの世界。

そこには見えない線引きのようなものが在る。



「んん、ふ…ッ待っ…」



未だに煩い声を黙らせようと、狭い咥内に舌を滑り込ませ唾液ごと声を絡め取る。
深く口付けては余裕を与えず。
押し退けようとしていた両手が神田の団服を掴むようになって、ようやく解放した。

浅く息継ぎを繰り返しながら恨めしく見上げてくる目は、濡れそぼり暗い眼に艶を与える。
酸素が足りない所為か、赤みが増した肌に乱れた髪が貼り付く。



「は、ぁ…っ自分のしてる、こと…わかってる…?」

「お前こそ」



遠のく陽の差す広間も、狭く切り取られた青空も、まるで現実味がない。
蜃気楼のように揺らめいて、心を惑わす。

仕事着の隙間から隠せずに零れ落ちる、愛瀬を重ねる時にだけ魅せる雪の女の顔。
ちぐはぐに彩るそれだけが、リアルなものとなって肌に伝わる。



「自分がどういう姿してるのか、わかってんのかよ」



それはどうしようもなく体の芯を揺さぶってくるのだ。

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