第14章 Ⓡ◆路地裏イチャアンin神田【企画】
「………」
「わ、二人の顔近い…外での距離、教団で見るより近いんじゃない?」
そっと、ほんの少しだけ頭を下げてみる。
それでも雪の興味の矛先は、マリとミランダの距離にだけ。
それ以上に至近距離にある神田の気配には気付いていない。
触れ合えそうな肌と肌。
近付けば香る雪の匂いは、香水やシャンプーなど甘く爽やかなものではない。
硝煙と錆びた鉄の臭いと、それから鼻に突いたのは微かな血の臭い。
任務中に怪我をしていないことは確認済みだ。
となればAKUMAのものか、はたまたAKUMAが殺した見知らぬ人のものか。
血に飢えるなどと、吸血鬼であるクロウリーのような意識は持ち合わせていない。
それでも僅かに意識が昂ぶる。
(…まだ残ってんな)
どうやら先程まで死線を交えてAKUMAと殺り合った血流の昂ぶりが、僅かながら残っていたらしい。
五感が鋭さを増したままで身を寄せれば、戦闘の臭いの中に混じる雪自身の匂いをも嗅ぎ取った。
発する汗の匂いが、残っていた僅かな昂ぶりを燻らせる。
じり、と焦げ付くような欲が神田の中で身を擡げた。
「教団であんな姿見せてくれたら───ひゃあッ」
がぷ、と唐突に感じた首への刺激。
反射的に上がる色気皆無な声に、神田は顔を埋めた首筋から雪の顔を伺った。
「なっな、何、してんの…っ!?」
そこには路地裏の先の光へと目を向け、爛々と顔を輝かせている雪の姿はどこにもない。
真っ直ぐに此方を凝視してくる様に、くつりと喉奥で笑いたくなる。
「大声出すなよ。マリに気付かれるんだろ」
「いやだからって、何し」
「マーキング」
「は?」
「どっかの馬の骨をこういう所に連れ込まない為にな」
「何、意味わかんな…っ」
押し返そうとするも、狭い路地内では触れ合わない方が無理と言うもの。
甘く噛み付いた首筋にそのまま跡を残すように吸い付けば、びくりと雪の体が強張った。