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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第14章 Ⓡ◆路地裏イチャアンin神田【企画】



「しッ静かにッ大声出したらマリにバレるッ」

「なんでバレたらいけねぇんだよ」

「だってあれ…っ」

「?」



路地裏に身を潜めながらも、食い入るように雪が見つめ指差す先。
其処には大通りをゆっくりと歩む私服姿のマリの姿があった。



「はぁ…すっごく楽しかった!」

「良かったな」



そこには寄り添う人影が一つ。
両手にパンフレットのような物を握り、弾んだ声で笑顔を見せる。



「マリさん、今日は誘ってくれてありがとう…!」

「はは。そこまで頭を下げられると照れるな。私もミランダのお陰で、舞台を楽しむことができたからお互い様だ」



それは神田やマリと同じエクソシストとして教団で働いている、ドイツ人女性のミランダ・ロットーだった。



「そうなの?」

「ああ。ミランダの反応を感じていれば、どれだけ楽しい演劇だったかわかる。心音がいつも素直で偽りない音だから」

「そ、そう、かしら…」



マリの優しい声に絆されるように、ミランダの頬が赤く染まる。
盲目のマリにはミランダの赤面など見えていないだろう。
しかしまるで彼女の感情を手に取るかのように、マリは穏やかな笑みをほんの少しだけ深めた。



「ミランダ、腹は空いていないか?どうせならランチもして行こうか」

「え、ええ。ぜひ…っ」



さり気なく紳士的に片手を差し出すマリに、躊躇なくその手を握るミランダの顔はまだほんのりと赤みを差していたが、確かな笑顔を浮かべていた。
教団で見慣れているはずの彼女の、見慣れない"女"としての顔に、一瞬神田も目を止める程。

二人が恋仲であることは薄々勘付いていたが、元より二人の仲など興味はない。
しかし傍で身を潜める雪は違ったようだ。



「わぁ…見てよユウ。ミランダさんのあの顔。幸せそうだなぁ…」



ヒソヒソと嬉しそうに話しかけてくる様は、まるでご褒美を前にした子供のようだ。

雪が急いで路地裏に身を潜めたのは、どうやらデート中であるマリとミランダを出歯亀する為だったらしい。
そう悟ると同時に、がくりと神田の肩は脱力した。
何故他人の中睦まじい姿を、わざわざこっそり隠れて観察しなければならないのか。



(…帰りてぇ)



自分には一つの得もない。

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