第14章 Ⓡ◆路地裏イチャアンin神田【企画】
思えば、雪が最初だった。
「あれ、マリ?」
ファインダーを示す、ジッパーだらけの真っ白なマント。
行きには洗い立てのシーツのように純白だったそれが、今では至る所煤汚れている。
AKUMAとの一戦を交えた任務帰りに、廃れたフードの下から覗く両の目がそれを捉えた。
「あ?」
ワンテンポ遅れて反応を示したのは、先を歩いていた神田。
雪のマントより汚れの少ないエクソシストの団服は、ファインダーとは真逆に全身黒尽くめな為、尚のこと煤など主張しない。
しかし服の上に乗る綺麗な顔には、面倒だと主張する面構え。
それでも一応と、雪に目を向ける。
「ほら、あそこ。マリじゃない?」
「だからなんだよ」
ほら、と振り返る雪の指差す先を見れば、確かに人混みの中大通りを歩いているのは見知った人物。
大柄な為によく目立つ、神田と同じエクソシストであるマリだった。
しかし目を止めたのは最初だけ。
すぐに神田の目は興味なく逸らされる。
だからなんだと言うのだ。
エクソシストなんて教団で見慣れている。
それよりもさっさと教団に戻り、汗塗れの体を熱いシャワーでリセットしたい。
「帰路で任務に出るマリと鉢合わせしたって、別に可笑しくねぇだろ」
「でもマリ、団服姿じゃないよ。あれは───」
言い掛けた雪の声が唐突に萎んだ。
かと思えば、面倒臭そうに去ろうとする神田の腕をがしりと掴む。
「…あ?」
ぐ、と引き止められ足が止まる。
またもやワンテンポ遅れた。
「ユウ、こっち!」
「は?」
かと思えば、結構な力で腕を引かれる。
ぐいぐいと神田を引っ張りながら、雪が駆け込んだのは人が行き交う大通りの小道。
薄暗い路地裏だった。
「なんだってそんな所に…」
「いいから早くッ」
「はぁ?」
一体なんだと言うのだ。
訳がわからず引っ張り込まれた神田の長身は、暗い路地の中へと溶け込んだ。
引っ張られ押し込まれ背を付けたのは、固い煉瓦の壁。
「ユウ長身だから目立つ。ついでにその顔も。もっと頭下げてッ」
「おいコラしれっとディスってんじゃねぇよ」
「ディスってません褒めてます。ビケイ、サイコー」
「思っクソ棒読みだろうが!」