第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「今、その声を聴きたいって思ったら、駄目ですか?」
「…っ」
近過ぎる距離では、彼の表情は伺えない。
それでも充分過ぎた。
掠れた声で求めるは、椛自身の体だ。
「最近、ずっと椛の体にこうして触れてなかったから…ごめん。止められそうに、なくて」
コムリンⅥの暴走前は、長期任務で教団を離れていたアレン。
無事任務を終え帰ってきたかと思えば、立て続けに襲った猛暑でゆっくりと椛と体を重ねる余裕もなかった。
今日一日、間近で触れて、見て、感じた彼女の肌は、随分と久しぶりのものに思えた。
「でも…此処、シャワールームだよ…?」
求められることは嫌ではない。
それでも椛の気を止めたのは、場所が場所。
いくら人気のない場所でも、必ずしも誰かが訪れない保証はない。
「…うん。だから、」
ゆっくりと離れたアレンの顔は、暗い室内でぼんやりと表情を伝えてくる。
AKUMAに呪われた左眼は、発動時のみ赤黒く光り染まる。
なのに何故だか、銀灰色の瞳にも欲の色が混じって鈍く光ったように見えた。
「僕にだけ聴こえるように。声、少しだけ我慢して下さい」
ね、と囁く声の端が色を帯びる。
そのままシャワールームの一室に進むアレンに、抗う隙はなかった。
(ああ、これ)
優しく微笑みながらも、逃すまいと捕食するような瞳を持つアレンに、どくりと鼓動が脈打つ。
昼間、アレンが狼になどなるのかと心底信じられない顔で呟いていた雪の顔が、脳裏に浮かんでは消えた。
恐らく椛以外は、誰も知らない彼のもう一つの顔だ。
(雪ちゃん達には、見せられないや…)
自分だけのものにしておきたい。
そんな身の内に宿る独占欲に気付いて、椛はほぅと熱い吐息を溢した。
願わくば、誰にも見られないように。
願わくば、誰にも邪魔されないように。
そう望む、確かな自身の欲を感じて。
*Summer to spend with you.*
(暑い夏陽より 熱く身を焦がす)