第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「身を任せる、って…」
「椛は僕の腕の中にいてくれたらいいです。ちゃんと全部綺麗にしてあげますから」
「ぃ、いいよ…自分でできるから」
つまりは手取り足取り、体の隅々までアレンに世話を焼かれるということだろうか。
いくら恋人同士とは言えそんな経験はない。
最悪、彼の前で素肌も晒さなければいけなくなる。
「私、お、おばあちゃんじゃないよっそれくらい一人でできるからっ」
夜の熱気とは別に熱くなる体に、慌てて首を横に振り雑な言い訳してしまう。
しかしそんな椛に対し、アレンは冷静だった。
「おばあちゃんだなんて思ってないですよ。……だから、」
「…え?」
ぼそりと告げられた声はよく聞こえなかった。
ばたつく手足を止めて見れば、先程と変わらない銀灰色の目が向いている。
「椛は、僕の恋人だから。介護のつもりなんてない」
透き通る綺麗な薄い目色の奥に、ちりりと見え隠れする小さな炎のような色。
それは椛には見覚えのあるものだった。
「椛に触れるだけでも、何も感じないなんて無理です。その水着も、可愛いけど…際どくて、見ててハラハラしてました」
「っ…あ、アレンくん…」
つつ、と。
膝裏を抱き上げていた手が椛の太股をなぞる。
ぴくんと肌を震わせて、椛は間近にある炎を宿した瞳を見返した。
見覚えがある。
これは、以前にも見た熱を帯びた彼の瞳。
あれは、ベッドの上で自分を組み敷きながら見下ろしてきた瞳と同じものだ。
「海でも、あんな姿見せるから。自分を落ち着かせるのに苦労しました」
「あんな、姿?」
「雪さんに思いっきり胸揉まれたでしょ」
「あ、あれは…雪ちゃんが勝手にっ」
「そうですね。あれが雪さんだから良かったけど。でもあんな隙を他人に見せたら駄目ですよ。…あんな声も、他人に聴かせたら駄目です」
「ふぁっ」
ふにりと胸に触れる赤黒い左手。
弛む胸を包むように握られて、ひくんと椛の体が僅かに跳ねる。
「そういう声は、僕にだけ聴かせて下さい」
ぼそりと耳元で囁かれた声は、普段の彼とはまるで違っていた。
低く掠れた、欲情を宿した声だ。