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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第13章 ※◇◆Summer to spend with you.



「暑くなってきましたね。海で潮塗れになってますし、汗、流しに行きましょうか」

「え?でも大浴場もシャワールームも使えないんじゃ…」

「思い出したんです」



椛を抱いたまま歩き出すアレンの足は、大浴場のある棟には向かわない。



「修練場のシャワー室なら、ガスで動いてるはずだから使えるはず」

「あ」



そう言えばそうだと、言われてみて改めて椛も気付いた。



「汗が流せれば、ただ暑さに耐えるよりは楽になるだろうし。きっと発電機もすぐ直りますよ」

「そっか…そうだね。じゃあ皆に早く知らせてあげないと」



今はまだ花火やキャンプファイヤーを満喫しているだろうが、海上がりの彼らも潮塗れ。
その汗を心地良く流せる場所があるならば、教えるに越したことはない。



「…もう少し、後でもいいんじゃないですか」

「?」



しかし反するアレンは、何故か渋り返事。
きょとんと首を傾げる椛に、ちらりと向く銀灰色。



「言ったでしょ、今はまだ椛だけを見ていたいって。もう少し、僕に椛の時間を下さい」

「それは、いいけど…」



時間など、シャワーを浴びた後にいくらでもあるだろうに。
不思議そうに見つめながらも、椛はなんとなしに頷いた。
それだけ自分との時間を求めてくれているのだとしたら、嫌な気などしない。

広い修練場の建物の横に設置してある、シャワールーム。
暗くシンと静まり返った人気のない其処に、椛を抱いたままアレンは踏み込んだ。
照明の電気は付かないが、ガスのスイッチは入るところを見ると、アレンの予想は当たったらしい。



「よかった、使えるみたいだ」

「これでスッキリできるね」

「うん」

「もう下ろしていいよ、アレンくん。少し歩くくらいなら婦長さんも咎めないだろうし」

「駄目ですよ。その足の包帯は外せませんし」

「でも、それじゃあ汗が流せない…」

「大丈夫。僕が洗ってあげますから」

「え?」



てっきり下ろして貰えると思っていた体は、未だアレンの腕の中。
再びきょとんと見てくる椛の顔に、アレンはにっこりと笑ってみせた。



「だから椛は僕に身を任せてて下さい」

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