第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「下りますよ、椛。掴まって」
「あ、待って…ひゃぁっ」
「随分と…忙しないな…」
高いヘブラスカの腕の中から軽々と飛び下りると、すたりと地面に着地する。
抱いた椛に負担を与えないよう、なるべく丁寧に抱きしめて。
そうして笑顔でヘブラスカを見上げると、アレンは頭を下げた。
「綺麗な星空をありがとうございました」
「礼なら…椛に言うことだ…私は、貝殻の礼を…したまでだからな…」
「うん。ありがとう椛」
「そんな、大したことしてないよ。私も楽しかった。また来るね、ヘブラスカ」
「…ああ…いつでも待っている…」
ゆっくりと開いた地下に続く出入口へと沈んでいくヘブラスカを見送る。
最後の彼女の髪束がゆらりと出入口へ消えると、明かりとなっていた発光体がなくなり辺りは闇へと包まれる。
しかし空の瞬く星達が優しい照明となって、アレン達を照らしていた。
「本当に、ちょっと暑いね。夜だからまだ涼しい方だけど…これなら部屋でも───」
笑い掛けながら話す椛の言葉は、最後まで形にならずに消えた。
止めたのは、重なる唇。
優しく触れる、いつものアレンらしい口付けだ。
しかし唐突に奪われることはあまりなかったように思う。
ぱちりと目を瞬く椛が、ゆっくりと離れた銀灰色の瞳に映る。
「…アレンくん?」
はぁ、と微かに息をついて。
アレンはそろりと視線を外した。
「ごめん。我慢、できなくて」
少しばかり羞恥を帯びた彼の顔に、つられて椛の頬にも朱色が差し込む。
「ヘブラスカは悪くないけど、椛との時間を過ごしたかったから…」
そんなことを言われて、嫌な顔などできようか。
抱かれたまま、椛はそろりとアレンの首に腕を掛けて身を寄せた。
「嬉しい」
だから謝らなくていいよ、と続ける代わりに。
ちゅ、と愛らしいリップ音を立てたキスを一つ。
「えへへ」
はにかみながら心底嬉しそうに笑う椛に、とくんとアレンの鼓動も弾む。
しかし此処は教団敷地内の野外。
高まる熱とは別に、じわりと帯びるのは夏夜の熱気だ。