第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「凄いなぁ、私」
「くす。椛が凄いんですか?」
「うん。世界にはちっぽけなことだけど、私にはおっきなことだから」
ヘブラスカの髪束に埋まった互いの指先が触れ合う。
アレンの赤黒いイノセンスの左手に、愛おしそうに指を絡めて。
「…確かにちっぽけかもしれないけれど。でも、ちっぽけだから見えることもあります」
「ちっぽけで見えること?」
「例えば、この掌の柔らかさとか」
その指を緩く握り返しながら、アレンは顔の傍へと引き寄せた。
「肌の温かみとか」
ひたりと、華奢な手を己の頬に当てる。
「伝わる鼓動とか」
じっと見つめるアレンの銀灰色の両の眼が伝えてくる。
その熱を。
「ちっぽけじゃないと、見つけられないものだから。僕も、世界より、今は椛だけ見ていたい」
「…アレンくん…」
彼女の声が微かに掠れる。
浮いた熱の行き場を探すように、そっとアレンは顔を寄せた。
唇と、唇が触れ合う間近───
「………」
「………」
「……どうした…続けて構わないぞ…?」
重なろうとする影を、じぃっと見つめる巨大な顔。
途端に、椛は羞恥で顔を真っ赤に染めた。
「へ、ヘブラスカ…!(いたの忘れてた…!)」
「無理ですよ、そんなの…(…いたの忘れてた…)」
すっかり空気と同化していた我らがイノセンスの番人。
赤い顔で背中に隠れる椛を庇って、アレンは項垂れた。
そんな彼らの反応に、ゆらりとヘブラスカの口元に笑みが浮かぶ。
「悪かったな…水を差して…此処も暑いだろう…そろそろ内部に…戻るか…?」
「そ、そうだね…暑いね…っ」
「…そうですね」
こくこくと忙しなく頷く椛に対し、ぽりぽりと頭を掻きながらアレンはどことなく腑に落ちない顔。
その目が、はたと一点で止まる。
「部屋に戻っても暑いだろうけど…」
「なら…今日は…私の広間で…過ごすか…?」
「いえ。僕達は戻ります。此処で下ろしてくれていいですよ」
「え?行くの?アレンくん」
「うん。嫌?」
「ううん。それは構わないけど…」
「じゃあ失礼」
「あっ」
ゆっくりと降下するヘブラスカの腕の中で椛を抱き上げると、アレンは足元を見下ろした。