第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
教団本部を囲っている森から、リーリーと微かに奏でる虫の音だけが聴こえ続けている。
空を見上げれば、ちかちかと大小光る星達が音のないコーラスのように煌いている。
静寂ではあるが、無音ではない空間がどこか心地良い。
「綺麗だねぇ…」
隣には、飽きもせず魅入るように満点の星空を見上げている椛。
その横顔は微弱なヘブラスカの体の発光に照らされて、アレンには幻想的にも見えた。
「"星の数程"って表現があるけど、世界にはこんなに人がいたりするのかな」
「いるんでしょうね。きっと、星の数より多いと思いますよ」
「そうなんだ」
「多分」
互いに星空を見上げたまま、ぽつりぽつりと言葉を交わす。
穏やかにゆっくりと進むその時間が、なんだか心地良い。
「世界は広いんだね」
「そうですね。僕達の知らない世界は、きっとまだまだあると思います」
「世界の何処かで今、私達みたいに花火や星空を見上げている人もいるのかな?」
「いるでしょうね、きっと」
「そっかぁ。その人達も、こうして笑っているのかなぁ」
「どうでしょう。…そうだといいけど」
「うん。そうだといいね」
「椛は優しいですね」
「そう?アレンくんの優しさの方が、私は好きだよ」
何気ない会話のやり取りにも、愛おしさが芽生える。
ゆっくりと視線を下げたアレンが見つめた横顔は、見惚れる程に穏やかな笑みを称えていた。
「何処かの誰かも笑顔でいてくれたら嬉しいけど、私は、アレンくんが笑っていてくれたら一番嬉しいから」
アレンの視線に気付いたのか、静かに顔を向ける椛と目線が絡む。
「世界は星の数程の人達がいて、同じ時間を生きてるのに、知らずに通り過ぎていく人達も沢山いて。その中で、アレンくんとはすれ違いにならずにいられた。それって、なんだか凄いことだね」
なんでもないように、さらりと告げる椛の言葉は、いつも真っ直ぐで。
当たり前のように、伝えてくる想いは、いつもアレンの胸へと沁み込む。
強くぶつけてくるのではなく、抱きしめるような心地良さで。