第4章 ◆入れ替わり事件簿(神田)
「…労わってあげなきゃね」
湯船の中で、その左腕を優しく擦る。
今までも、きっとこれからも。この左腕は幾つもの傷を受けていくんだろう。
私はアレンじゃないから何もできないけれど、せめてこの時だけはこの体を労わってあげようと思った。
「お疲れ様…アレン」
そうっと自分の体に呼びかける。
傍から見れば謎な光景だけど、まぁ誰もいないし──
ガラッ
そんな静寂を突き破ったのは、勢いよく浴場のドアが開く音。
「え。」
「あ?」
思わず目を向けた先には、腰布一枚だけの姿で立つ──…ええええええ。
いや、ちょっと。
待って待って。
なんで貴方が。
此処にい
「なんでテメェがいんだよ…モヤシ」
それ私の台詞ー!!!!!
「……か…神田、こそ…」
なんとか言葉を返した先には。
そう、例の暴君様が眉間に皺寄せて立っていました。
…どうしよう、逃げたい。
「チッ」
嫌そうに舌打ちしながらも、出ていく選択は神田の中になかったらしい。
スタスタと足を進めると、私が浸かっている湯船から一番離れた場所にざぷんと腰を下ろした。
「「……」」
沈黙が痛いというか…目のやり場に困るというか…。
や、神田の上半身くらい見たことあるけど。
任務先で激しい戦闘も何度もしてきた神田だから、裸くらい見たことあるけど。
…でもこういう場所でってのはないから…!
当たり前だけど!
「ぼ…僕、そろそろ出ようかな…」
「オイ」
あはは、と空笑いを浮かべながら腰を上げようとすれば、背中を向けた背後から低いお声がかかった。
え、と…なんでしょう…?
「なんですか?」
「…お前、こっち向け」
「はい?」
背中を向けたまま問いかければ、ずばり一番やりたくないことを促された。
いや…目のやり場に困るから。
確かに色付きの湯船だから、お湯の中は見えないけど。
でもなんとなく困るから。
というかまた頭殴られたら堪らないから。