第4章 ◆入れ替わり事件簿(神田)
「大人しく寝るんですよ」
「了解です」
まるで親のような言いつけに苦笑しながら、部屋まで送ってくれたリンクさんに軽く手を振る。
時刻ももう遅い。眠気はないけど、もう寝てもいい時間帯。
アレンのことはしっかり者のリンクさんがいるから、なんとなく安心して任せられるし。とりあえずまぁ、大丈夫かな。
「──って、ことで。」
ごめんなさい、リンクさん。
寝る前に一つだけやりたいこと、あったんです私。
「…おお、バッチリ読み通り…!」
白い湯気が立つ男性用の広い大浴場を前に、思わず歓声を上げる。
そう、私がしたかったこと。
それはアレンの体のうちにお風呂に入ることだった。
いや決してアレンの肉体美を堪能したいとかそういうことじゃなくて。
周りの男性陣の裸体を見たいとかそういうことでもなくて。
純粋に、ただお風呂に入りたかった。
「湯船なんて久しぶりかも…」
なんせ自分の体じゃここ最近は毎日シャワーばかりで、湯船になんて浸かっていなかったから。
原因は勿論、あの額の聖痕の傷跡の所為。
いつもシャワーを浴びる際に怪我の確認をしていたから、堂々と公共の大浴場は使えずにいた。
「誰もいないし…今のうちにさっさと入って上がろっと」
時刻も遅めを狙って来れば、幸運なことに24時間体制の大浴場には誰もいなかった。
うん、私の読みバッチリですね。
これなら人目を気にせず、リラックスしてお風呂に入れる。
「は~…気持ちいい~…」
肩まで浸かった湯船に、極楽極楽と溜息を零す。
アレンには悪いけど…ちゃんと腰にタオルは巻いてますから。
大丈夫、肝心なとこ見てませんから。
「にしても…傷跡だらけだなぁ…」
ふと湯船に浸かった自分の左腕を見る。
アレン特有の、赤黒い寄生型の左腕。
他者の目で見ていた時はその色や形に目を引かれて気付かなかったけれど、こうして自分の体として見れば所々傷跡が幾つも見えた。
…それだけ沢山、この左腕で戦ってきたんだろうな。