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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第13章 ※◇◆Summer to spend with you.



「あっ次はね、緑と赤の花火なの!空一杯に広がって、大きなお花みたい!」

「そうか。凄く綺麗なんだろうな」

「とっても綺麗よ、マリさんっ」



どぉん、と花火が一つ鳴る度に、身振り手振りを交えて必死に花火の様を解説するミランダ。
盲目のマリにはその様が見えていないが、気配で伝わるのか、くすりと口元に優しい笑みを浮かべる。



「ありがとう、ミランダ」

「これくらいのこと、どうってことないわ。マリさんにも花火を楽しんでもらいたいし…」

「それなら問題はない」

「?」



盲目のマリには花火の地響きのような音と火薬の臭いは伝わっても、肝心の煌びやかさは伝わらない。
なのに首を横に振り笑うマリは、本当にこの場を楽しんでいるらしい。
エクソシストであるが故に、常人では測れない花火の良さでもわかるのだろうか。
そう首を傾げるミランダに、マリの常に閉じられている瞳が僅かに開いた。



「ミランダの心音が、花火が上がる度に変わるんだ。楽しそうに弾んで、私にはメロディのように聴こえる」

「そう、なの?…なんだか、て、照れるわね…」



盲目であるが故に特化したマリの聴覚は、他人の心音を詳細に感じ分ける。
とくん、と伝わる柔らかい彼女の心音は、恥ずかしそうにしながらも喜びを感じている音。
マリの光のない世界には、それが優しい音色となって瞼の裏に映るのだ。



「だからあんまり必死にならなくても大丈夫だぞ。ミランダが花火を楽しんでくれたら、私も楽しいから」

「マリさん…」



ぱちりぱちりと瞬くミランダの目が、やがて嬉しそうに細まる。
互いの間に、それ以上交わす言葉はない。
しかしマリには充分だった。

とくん、とくり

忙しない彼女の心を表すような、ころころと変わる心音は、やがて心地の良い一つのメロディのように奏でてくれる。

花火の轟音でも消せやしない。
それはマリにだけに見える、特別な音の色なのだから。




















「………なぁ、此処しか場所ないんさ?」



辺りを見渡せば、仲睦まじそうに花火を見上げる各々の男女。
ついご馳走様と呟きたくなるような雰囲気に、ラビは堪らず顔を顰めた。

さっきから場違い感が否めない。

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