第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「アレンくん、アレンくんっ」
子供のように弾む、無邪気な声。
何か楽しいことや嬉しいことを見つけた時、彼女は名前を二回呼ぶ癖がある。
その嬉しさを伝染させるように、体や声でめいいっぱい伝えてくるのだ。
アレンは、その声が好きだった。
聞いているだけで自然と笑顔が惹き付けられる声だ。
「なんですか?」
「見て、あそこ。綺麗な夕焼け!」
振り返れば、其処には想像通りの椛の姿があった。
爛々とした顔で指差す先は、赤く染まった空と水平線。
ゆっくりと陽が落ちていく空と海の境界線は、眩くも温かい光を放っている。
鮮やかな空を海が静かに飲み込んでいくようだ。
「本当だ、綺麗ですね」
「うん。アレンくんも」
「僕?」
「うん。色素の薄い髪をしてるから、アレンくんの髪ってその時々で色んな色に染まるんだよね。今は茜色」
夕焼けからアレンへと目線を変えた椛が、ふにゃりと微笑む。
「とっても綺麗」
そう告げる椛の顔も、温かい色に照らされて。
不意を突かれて熱くなった顔は、夕焼けのお陰で気付かれなかった。
「…そう、かな。椛はいつも綺麗ですけど」
「そんなことないよ〜。アレンくんの方が綺麗だからっ」
「あはは、男の僕に綺麗だなんて」
両腕に抱いた太い丸太を抱え直しながら、アレンは控えめに笑い返した。
楽しい時間こそ、あっという間に過ぎるもの。
海でイルカ達と戯れ、ウォータースライダーを満喫し、バイキングやバーベキューを味わえば、高い位置にあった太陽は気付けば海へと沈みかけていた。
力む椛の格好は昼間と変わらぬ水着姿のままだが、その手にはアレン同様幾つもの木々が抱えられている。
「これくらいあれば足りそうだし。そろそろ皆の所に戻ろう」
「アレンくん、大丈夫?そんなに沢山持てる?」
「平気です。日頃鍛えてますから」
言葉通り、アレンの密林の入口を進む速度はいつもと変わらない。
なんでもないことのように巨大な丸太を幾つも担ぐアレンを、椛は感心して見つめた。
夜の海はキャンプファイヤーが定番だと、一体誰が言い出したのか。
それでも、陽が落ちればリナリーの為に花火を上げるとコムイが言い出すものだから、期待感は湧く。