第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「でも、こんなところ、誰かに見られたら…」
「誰もいねぇよ。それくらいわかる」
他人の心音を聴き分けるマリ程とはいかずとも、神田の探知能力の高さは確かなものだ。
それでも不安を隠せない雪の顔に、口付けを一つ落として。
「雪のその姿を誰かに見られんのは、俺がごめんだ。だから信用しろ」
「でも…か、帰ったら、つき合うよ?」
「そしたらまた暑さでバテるだろ、お前」
「…ぅ」
神田の言うことは的を得ていて、否定できない。
渋い顔で口籠る雪に、もう一度くつりと喉を鳴らして神田は笑った。
「最後までしないって言っただろ。ただ俺も不足してるもんがあんだよ。それを補充させろ」
水の中で、腹部に触れた神田の大きな手がゆっくりと這い上がる。
胸には触れず、その中心にある火傷の跡を殊更優しく撫で上げて。
「ん…不足、してるものって?」
「言わなくてもわかるだろ」
持ち上げた二の腕に残る細長い傷跡には、唇を寄せて。
そうして慈しむような神田の行為に、体だけでなく胸をも熱くさせながら、雪はじっとその目を見つめた。
予想はしている。
間違ってもいないだろう。
それでも口にして欲しいのだ。
普段簡単にその想いを言葉に変えない、神田本人の口から。
じっと見つめてくる雪の暗い瞳に、やがて神田は息をついた。
吸い込まれそうな闇に近い色の瞳で因われてしまうと、抗うことは難しいと知っていたからだ。
諦めて伸ばした手は、雪の頬を伝う雫を優しく拭い取る。
そうして顎に指を添えて軽く持ち上げると、静かに顔を寄せた。
「雪が足りない」
だから、と続く先の声は、重なる唇に途切れる。
応えるように神田の首に腕を絡ませる雪に、口付けは深く変わる。
求める言葉は、互いの欲に呑まれて消えた。