第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「ユウ、楽しい?」
「ああ。割と面白い」
面白いという言葉には些か眉を潜めてしまうが、それでも滅多に表情を崩さない神田が笑っている。
雪は肩の力を抜くと、への字に曲げていた口元を緩めた。
「わかった、気を付ける。短パンは脱いでおくから、水着返して」
「………」
「? 返してってば」
笑顔で告げても、何故か神田は動かない。
聞こえなかったのかと手を伸ばせば、水着を握った神田の手が退いた。
「ユウ?」
「………」
「何、黙り込んで。返してって───あっ」
蛇のように放られた水着は、ぽてりと湖の周りの岩場に落下。
「え。何すんの?」
「いいんじゃねぇか」
「何が」
「なくても」
「はいっ?」
ぱちゃりと水が跳ねる。
なんとなく感じた気配に一歩後退れば、一歩踏み出す神田の足。
しがみ付いていた手はとっくに離していたのに、いつの間にか神田の腕が背に回されている為に距離は取れない。
背中を辿る神田の指が、ビキニの紐に掛かる。
今にも外れてしまいそうな予感に、雪はぎょっとした。
「な…何してんのかな?」
「今朝の続き」
「何言ってんの。此処、外っ」
「だな」
「いやいや。だなじゃない、だなじゃ」
「水ん中だったら傍から見えねぇだろ」
「いやいやいや。無理。絶対無理。無理だって…わぁッ」
するりと肌の上を解けた紐が滑る。
「ユウさん!?」
「最後までしねぇよ。でも朝は据え膳食らわされた」
「あれは…っ」
しっとりと濡れた雪の髪を耳に掛けながら、そこに唇を寄せて。
「雪にもつき合うから、俺にもつき合え」
耳朶に微かに触れる口付けに、ふるりと雪は身を震わせた。
顔が熱を帯びる。
「っ…それ、狡い」
「そうか?」
「んっ…わかってやってる、でしょ…」
「さぁな」
心地良くひんやりとした水の中で、神田が触れてくるところだけが熱を持つ。
耳朶から首筋へと辿る唇に、背中の筋を撫で上げる指。
じわりじわりと広がっていく熱に、雪も熱い吐息を零した。
何かと乱暴な態度の多い神田が、そうして優しく意思を持って触れてくるのは、嫌いではない。
寧ろ好きなものだ。
だからこそ簡単には邪険にできない。