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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第13章 ※◇◆Summer to spend with you.



雪が蛇に対してここまで怖がる姿は見たことがない。
人間、誰しも得手不得手はあるだろうが、彼女は苦手であったであろうか。



「お前、爬虫類が駄目な奴じゃなかったろ」



共に任務をこなしてきた神田の目に、雪がそういう類の人間に映ったことはない。
ミミズだってオケラだってアメンボだって友達だと平気で触れられる人間だ。



「だからって、こ、こんな所に入ってたら驚くでしょ普通…!」

「そうか?」

「そうです!」



しがみ付いたまま、捲し立てる雪の目は未だに固く瞑られたまま。
ぶるぶると肌の震えを感じつつ、神田はまじまじと目の前の存在を見つめた。



「…くっ」

「!?」



次に漏らしたのは、声を殺した笑い。
思わず雪がガバリと顔を上げれば、くつくつと控えめだが笑う神田がいるではないか。

人の不幸を笑うとは何事か。
そんな訴えが聞こえてきそうな雪の顔に、神田は首を横に振った。



「いや、なんつーか。つい」

「つい、じゃない。ついじゃ」

「そう怒んなよ。随分素直だなと思っただけだ」

「違うでしょ。人の不幸を笑ったでしょッ」

「そりゃそこまでビビられたらな」

「やっぱり」

「不幸だなんて思ってねぇよ。そんな所に蛇なんて入りゃ誰でも驚くんだろ」



神田の手が雪の頭にぽふんと乗る。
わしゃわしゃと雑にでも撫で回され、雪は口をへの字に曲げた。



「なん」

「だから言ったんだ。大方、岩場の隙間とでも間違えて入り込んだんだろ」

「でも」

「あれは毒蛇じゃねぇよ。安心しろ」

「………」



被せてくる声は、決して威圧あるものではない。
寧ろ優しい響きで、言い聞かせるのではなく声をかけてくる。
見下ろす切れ目の奥の瞳は、いつもの漆黒なのにどこか柔らかい。
どうやら馬鹿にして笑っている訳ではないのは、本当らしい。



(なんかユウ…機嫌いいな)



南国の島に来てからずっと仏頂面だった神田が、初めて見せた笑顔だ。
そう感じると、吐き出していた不満の声は止まってしまった。

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