第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「いいから早く引き摺り出せ。モヤシの所まで放り投げてやる」
「ティムに乱暴は駄目っまたアレンと喧嘩の原因になるでしょ」
「勝手に潜り込んできたそいつが悪いだろ。いいから出せ」
「わかったから、そんな至近距離で凄まないで怖い。ティムにも何か理由があったんだってきっと。…多分」
相手が愛嬌あるゴーレムだと思えば恐怖も消えたのか、体と声の震えを消した雪は、なるべく優しくティムキャンピーの尾を引っ張った。
つるりと引き出されて顔を出す。
「ティム、なんでまた服の中に入り込んで──」
細い蔓の先端は、丸いぽよんとしたマシュマロボディ。
「んの…?」
ではなく。
シャープに長い横顔。
真っ赤な血のような色に、縦に割れた眼球。
深く裂けた口の中からちょろりと覗く、先の割れた細長い舌。
「シャー」
かぱりと口を開いて威嚇するのは、金色の小さな蛇だった。
「ひっ…いぎゃぁああぁああ!!!!!!」
ぽかんと一瞬蛇を見たかと思えば、凡そ人とは思えない叫び声を上げて雪は握ったそれを空に向かって放り投げた。
神田が雪の服に潜り込んだティムキャンピーを怒り任せに壁に叩き付けた時と、然程変わらない勢いで。
しかし真上に放られた蛇は、やがては重力に従って落ちてくる。
「へへ、へへへびへびびびび!!!!」
「っ落ち着け!」
ばしゃりと水が跳ねる。
顔面蒼白のまま突進してきた雪を辛うじて片手で受け止めながら、神田は落下してきた蛇を空いた手で掴み取った。
「シャー!」
真っ赤な目を剥き出しに威嚇してくる様は恐ろしくはあるが、サイズがサイズだ。
金色の体もよくよく見れば、一色ではなく金に白と斑に模様が入っている。
「どどどどっかやって!噛み付かれる!」
ぎゅうぎゅうと、まるで羽交い締めに似たハグをしてくる雪に溜息をつくと、神田は蛇を湖より遥か遠くの草木の中へと放り飛ばした。
ガサリと音を立てて落下する蛇に怪我もないだろう。
「オラ。他所にやったぞ、落ち着け」
「ほ、本当…!?」
「ああ」
そうは言っても、落ち着きはしないのだろう。
ガタガタと震えながらしがみ付いた雪は、目視することもなく神田の胸に顔を押し付けていた。