第4章 ◆入れ替わり事件簿(神田)
なんとかその場の神田の殺気は治まったから、一段落ついたと思ったんだけど。
「……」
なんだろう…その…。
隣に座ってる暴君様から向けられる視線が、さっきからチクチク肌を刺してくるんですが…。
「…なんですか、神田」
にっこり取り繕うように笑ってみせれば、
「……別に」
素っ気ない返事だけ向けられる。
「あんまりアレンを睨まないで、怖がってるから」
そこに私の顔したアレンがフォローを入れてくれる。
「別に睨んでねぇよ」
神田の視線がアレンに向けば、体に感じなくなるチクチクとした小さな視線と威圧。
それに思わずほっと安堵の息をつく。
…うん。
こうしてアレンの身になってみれば、どれだけ神田と殺伐とした殺気を向け合っていたかがわかる。
こんな殺気を、笑顔で受け止められるのはアレンだからだろうな。
私じゃ一日も保たないよ。
「それよりお前、なんだその食べ方。野生児にでも戻ったのかよ」
「ふぇ? あ、つい」
またバクバクと口元に食べカスを付けて料理を平らげていたアレンが、呆れた神田の声に慌てて口元を拭う。
…うん、というか。
見た目は私なんだけど…なんだろう。
こうして神田が今此処にいる私じゃない、別の誰かを見ている姿になんとなく思い知らされた。
ラビが言っていた、神田が私に向けている"優しさ"。
確かにスパスパ頭を叩いてくるけど、あんな目の前に火花が散るくらいの重い拳なんて喰らったことないし。
あんな足が竦むような殺気も、早々向けてきたことはない。
まぁ、想いが通じる前は多少なりともあったけど。
こうして神田との距離が近付いてからは…そんな殺気、向けられたことは一度もなかったな。
「……」
そう思うと、じんわりと心は嬉しくなるのに。
「大体、野生児って何」
「…何すっ呆けてんだよ」
今の私に向いていない、別の誰かにその優しさを向ける神田を見ているのは…なんだか少し悲しかった。
…それはアレンで、私じゃないのに。
私は、此処にいるのに。
……。
……まぁ、入れ替わってるのに気付けって方が無理な話だけど。