• テキストサイズ

廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第13章 ※◇◆Summer to spend with you.



「何それ…そんなことで…」

「そんなことじゃねぇだろ」

「そんなことだよ。私は椛みたいな色気ある胸なんてしてないし、誰も注目しないから」

「じゃあなんだその手は」

「え」



心臓が跳ねた。
そっぽを向いていた神田の目は、いつの間にか真っ直ぐに此方を向いていた。
雪の顔ではなく、胸の前で握っている手に向けて。



「お前が暑さを我慢してシャツもズボンも着込んでんのは、"それ"の所為じゃねぇのか」

「……なんで、そんなこと…」

「服脱いだ時から位置が変わってない」

「あっ」



手首を握っていた神田の手に力が入る。
そのまま強く引かれて、雪の手は無理矢理剥がされた。
晒した胸は、本人の言っていたように椛に比べれば劣るもの。
それでもビキニで露出の多い肌は、胸の谷間もしっかり晒していた。



「っ…」



柔らかな曲線を描く胸と、その皮膚の上を走る爛れた跡も。
神田が示した"それ"を晒すと、雪の体に力が入る。



「や……手、放して」

「そんなに恥ずかしいのかよ。傷跡が」

「っ…ユウにはわからないよ…」



俯く雪の視界に映るは、自身の体。
胸の中心から星型に広がる火傷の跡だけではない。
腰骨にも、二の腕にも、体のあちこちに小さくともしっかりと残る傷跡がある。

それが恥ずかしいものだと思ったことはない。
エクソシストの次に肉弾戦の多いファインダーとして務めていれば、怪我など日常茶飯事。
そんなことはとうの昔に受け入れて、黒の教団へと入団したのだから。

それでも今更ながら、そんな女々しい気持ちを思い起こさせたのは、少なくとも目の前の存在も理由にあった。



「ユウが傷跡なんて気にしないことはわかってるよ。でも…椛や南に比べて、私の体はやっぱり綺麗じゃないし。どうしても見劣りしてしまうから…隠せるものなら隠したい。……ユウの前では少しだって綺麗でいたいの」



胸の中心に宿った"それ"は、アレンの退魔の剣で傷付けられた跡だ。
人間には害を及ぼさない、ノアとAKUMAにしか効かない退魔の剣。
その力が雪の体を蝕んだのは、雪が紛れもなくノアであるという証拠。

綺麗でいたいと望むのは、人としての思いもあった。

/ 723ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp