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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第13章 ※◇◆Summer to spend with you.



ざくりざくりと進む足音。
目の前は視界を遮る程の高い木々や、被さるように横倒しに茂った巨大な葉が、行く手を阻む密林。
しかし足音は止まる素振りも見せず、迷うこと無く進んでいく。

ミンミンと蝉のような合唱。
ホウホウと猿のような咆哮。
ピョロロロと聞いたこともない鳥類らしい声まで響く。
此処はジャングル。
道標のようなものは何もない。



「ねぇ」

「………」

「ねーってば」

「なんだよ」

「何処まで行く気なの。もう皆の声も聞こえないよ」



神田の肩に担がれたまま、彼が歩めば雪の体も揺れる。
最初こそ騒ぎ暴れていた雪だったが、神田相手に無駄な抵抗であることはよく知っていた。
やがて抗うことも止め、大人しく肩に肘を付いて揺れる神田の髪紐だけを見つめていた。

謝罪をしたかと思えば、雪を連れて何故か海ではなく密林の中へと向かった神田。
何が目的なのか、多くを語らない彼の真意を見破ることは長い付き合いでも容易ではない。



「暑いんだけど…海が恋しい」

「それならもうすぐ着く」

「え?海に?」

「お前が言ったんだろ、海がいいって」

「言ったけど……ぁ」



不意に雪の鼻を撫でたのは潮の香り。
密林を迷うことなく歩き続けていた神田の真意を、ようやく雪も理解した。
此処は無人島。
360度海に囲まれている陸地で、密林を突っ切って神田が向かっていたのは反対側のビーチ。



(成程。人のいない海に行こうってこと)



人混みを嫌う神田らしい案だと納得すれば、期待も膨らむ。
つまりは夏遊びの相手をしてくれるらしい。
神田がアレンのように遊びに浸る姿は想像できないが、そんなアレンと楽しそうにしていた椛を羨んでいたのも事実で。

胸が踊る。
笑顔に満ちる。
強くなってくる潮の香りに誘われるように、神田の肩の上で振り返った雪は、ざざんと鳴る心地良い波の音を聞いた。



「着いたっ?」

「ああ。暴れんなよ、大人しく──」


「あだだだッ、何をする!」


「あれ?人の声?」

「………」



心地良い波の音に混じり、突如として響いたのは他人の声。
きょとんと目を瞬く雪とは別に、神田は眉間に皺を寄せた。

人のいない所を求めて来たのに、何故いるのか。

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