第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
ぽつんと一つ、鎖骨の少し下に付けられたラビの主張。
しかし水着の紐の位置を戻せば、赤い跡はさり気なく隠される。
(大胆なところもあるけど、こういうところは繊細というか…なんだかんだ言っても、気にしてくれるんだよね)
彼独特のおちゃらけたわんぱくさで振り回されることもあるが、何かあった時には真面目に向き合って対応してくれる。
そんなラビらしいものだと思えば、嫌な気なんてしなかった。
「…そうだね。そういうところ、凄くラビっぽいなぁって思う」
でも、と付け足して。
腰を上げると、南は距離を離したラビの下へと歩み寄った。
すとんと目の前に座り込んで、もう触れてこようとしない手をやんわりと握る。
「私は、ラビの良いところだと思うよ」
「…本気で言ってるんさ…?」
「勿論。だから…この跡が消えるまでは、ね」
去年の夏は言えなかった。
その一歩を踏み出す為に。
「ラビのものでいる」
へらりと、同じに腑抜けた笑顔を向けて。
上手く笑えただろうか。
「………」
「…ラビ?」
予想外にも、ラビからの返答はなかった。
喜ぶか驚くかでもすると思ったのに、うんともすんとも言わないではないか。
不安になる前にと繋いだ手はそのままに顔を覗き込めば、我に返ったラビが後退るように頭部を退いた。
「っ」
その顔はほんのりと赤い。
「ほ、本気で言ってんさ?」
「…一度しか言わないからね。聞き逃したら無」
「聞いた!聞きました!だから無しはタンマ!絶対駄目さ!」
握っていた手を逆に強く握られる。
はい!と勢いよく挙手する姿には、南も声を上げて笑った。
友人と言うには物足りなくて。
仲間と言うには何かが欠けて。
恋人と言うには今一歩。
そんな不確かな関係でも、悪くないと思えたから。