第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
あの時は、南のその反応だけで充足感に包まれた。
あれから一年。
あと一歩くらい、そこから踏み出してみてもいいのではなかろうか。
「オレの誕生日を祝ってくれるってんならさ、」
ちゃぷりと波が立つ。
南の前まで歩み寄ったラビは、目を逸らすことなく言い切った。
「今日だけでいいから、本当にオレのもんになってよ」
暗い、東洋人独特の南の瞳が丸くなる。
反応はない。
しかし彼女の頬に差し込んだ朱色だけで、充分だった。
30cmもない互いの距離を詰める。
「ら、ラビ?」
思わず後退る南の背中には陸地の岩場。
岩肌で怪我をさせないようにと伸びたラビの腕は、易々と細い南の体を包み込んだ。
ぱしゃりと波が立つ。
「何、近い──」
胸を押し返す南の手は動揺故か、強い力ではない。
(それじゃ駄目さ。逃げるならしっかり拒絶しねぇと)
抗いにもなっていない体を抱き寄せたまま、ラビの隻眼が南の肌のラインを追う。
赤い顔に、戸惑う手元に、濡れた髪に、ひたりと首元に張り付く髪を結ったリボン。
(逃がす気もねぇけど)
本音は胸に閉まったまま。
顔を寄せるラビに、南は咄嗟に強く目を瞑り唇を結んだ。
唇を奪われるとでも思っているのだろうか。
愛らしくも見える南の反応にラビは微かに笑うと、誘われるようにそこに顔を埋めた。
「ぁ…っ?」
ぴくりと南の肌が跳ねる。
ラビが唇で触れたのは、感触も体温も知っている南の唇ではなかった。
ひんやりと海水で冷えた、細い首筋。
「ラビ、ちょっと…な、何」
「………」
「ん、待っラビ、てばッ」
聞こえないフリのまま、ラビの唇は肌の感触を確かめるように首筋から鎖骨へと下っていく。
啄むような微かな愛撫は主張らしい主張をしてこないのに、近過ぎる体温に南の顔は熱を持った。
心臓が脈打つ。
唇とは相反し、逃すまいと捕えてくる二つの太い腕に抱き竦められて。
更に顔は熱を持つのだ。