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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第13章 ※◇◆Summer to spend with you.



「…オレ、今日誕生日じゃねぇけど」

「今月誕生日でしょ。当日前後も任務入ってたみたいだから、今の方が都合がいいかなって」



岩場に身を寄せていた南が振り返る。
まじまじと見てくるラビと向き合うと、翡翠色の目を見つめ返した。



「お誕生日、おめでとう」



少し早いけど、と取って付けるフォローはラビの耳には入ってこなかった。
天井から降り注ぐ木漏れ日のような光に照らされ、祝いの言葉を捧げてくれる南から目が離せなくなって。



「…欲しいものが別にあるなら、その時は言ってくれたらいいから」



自覚はあるが、羞恥が勝ったのだろう。
言い訳のように恥ずかしそうに付け足す南の姿は、充分にラビの理性を飛ばそうとジョブを放ってくる。

今目の前にいる貴女を下さいと言えたなら。
後一歩、踏み出せない距離がもどかしい。



「…じゃあさ、南。去年言ったもう一個のオレの願い、憶えてるさ?」

「もう一個?そんなのあったっけ?」

「花火を見てる時に言ったろ。思い出せねぇ?」

「えー…うーん?」



ラビの問いに思い出せないのか、首を捻る南は難しい顔。
もどかしい距離を縮めるように、ラビはゆっくりと水を掻き進んだ。

花火に照らされた南の姿があまりにも綺麗で、衝動で唇を奪ってしまった夏の夜のこと。
彼女がどんな顔をして、どんな反応を見せて、どんな言葉を発したのか。
ラビの頭には鮮明に記憶されている。



「"…ずりぃよな、ほんと"」

「え?何?」

「"南の存在が"」

「ラビ?」



一文一句、忘れていない。
あの時彼女に求めた言葉を、紙に書き出すかのように紡いでいく。



「"だから今日はオレのもんでいて。オレの為の存在でいて"」

「………」

「"今はオレのことだけ考えてて"」



一年前、浴衣姿の南を抱きしめて求めた言葉だ。
それを南も思い出したのか、返す声が止まる。

あの日、その返答を南から貰うことはできなかった。
しかし代わりに抱きしめ返された腕が、背中をあやすように撫でてきた手が、思いを受け入れてくれたことを物語っていた。

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