第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「南?」
ざぶりと波を掻いて横穴の入口を覗けば、先を進んでいた南が振り返る。
口元に立てた人差し指を当てて、しーと目配せ一つ。
再び背を向け先へと泳いでいく南に、ラビは慌てて辺りを見渡した。
こちらを見ている者は誰もいない。
「っ」
まるで秘密の誘いのようではあるまいか。
後を追わない選択肢はないと、ラビも横穴の中へと続いた。
奥へ続く洞穴に比べれば、横穴は細く狭い。
顔が辛うじて水面の上に出る程の低い天井で、水中を蹴り進む。
入り江から見るよりも洞窟内は続いていたらしく、長いこと泳いでいたようにも思える。
しかし前を進む南の姿は、分かれ道を前にしても迷うことなく進んでいった。
やがて辿り着いたのは、開けた岩場のスポット。
「わー…綺麗」
行き止まりとなっている開けた空間には、陸地となっている岩場と高い天井。
天井から微かに降り注ぐ陽の光が、水中の紺碧の光をより一層照らし出していた。
教団の大浴場程の広さは、二人でいても開放感がある。
空気中の塵をキラキラと輝かせる陽の光を見上げながら、南は感嘆を吐いた。
「こんな隠れスポットあったんか…南、よく気付けたさ」
「風がね、ずっと吹いてたから。何処か外に繋がってる場所があるんだろうなって思って。想像以上に綺麗な所だったけど」
ラビが後を追えば、ゆっくりと水面を揺らして南が振り返る。
「此処なら誰もいないし。二人きりでしょ」
「え?」
思いも掛けない言葉に鼓動が跳ねた。
「何、素っ頓狂な顔して。洞窟に二人で行こうって誘ってくれたのはラビでしょ?」
「や、そうだけど…南は、皆と一緒が良かったんだろ…?」
「…自惚れだとは思ってるよ」
素直に疑問を問えば、南は恥ずかしそうに顔を背けて岩場へと身を寄せた。
「でも去年、ラビ言ったでしょ。プレゼントは私との時間が欲しいって」
プレゼントと聞いて思い浮かぶ節は一つしかない。
去年、同じように暑い日に南と共に過ごした。
あの日本の夏。
「だから少しだけでも、二人きりになれたらと思って。…誕生日でしょ」
8月10日。
ラビの誕生日での出来事だ。