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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第13章 ※◇◆Summer to spend with you.



「言うのが遅いよ…ユウの馬鹿」



二度目の悪態は優しい響きだった。
顔を両手で覆って呟く彼女の表情はわからない。
それでも拒絶ではない雪の反応に、神田は担ぐ腕を僅かに緩めた。



「じゃ行くぞ」

「…は?」



それも束の間。
くるりと体を反転させたかと思えば、ざくりざくりと砂地を再び歩み始める。



「行くって何処にっ?というか下ろしてよッ」

「着いたらな」

「着くって何処に!?そっちジャングルですけど!」



海へ、ではなく。
木々が生い茂った密林へと。



「やだ!そっちなんかやだ!海がいい!」

「夏らしくなくてもいいつったのは雪だろ。黙ってついて来い」

「それついて来いじゃなくて連行だから!誰か助け…っ」

「ついて来た奴はぶった斬る」



振り返り様にギロリとひと睨み。
脅しのような念押しを最後に、大股で進む雪を担いだ神田の姿は、瞬く間に密林の奥へと消えていった。



「だ、大丈夫かな…雪ちゃん…」

「あれ助けた方がいいんじゃ…」

「いいでしょ、あれで」

「「いいの?」」



思わず椛とアレンの声が重なる。
肩を竦めながら消えた密林を見つめるリナリーの顔は、呆れながらも柔らかだ。



「面倒なことがあるとすぐに一人で消える神田が、強行してでも連れ添いたい相手ができたってことなんだから。悪いことじゃないでしょ?」



そう言われれば確かにそうだと納得もできる。
追いかけていきたくもなる足を止めて、アレンは自分に言い聞かせるように頷いた。

果たしてそれが雪にとって良いことなのかは、別として。









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