第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「な、なんでそこで睨み返すの?謝るとこだろフツー!?」
「そ、そーだそーだ!」
「雪に謝れー!」
「謝らねぇなんて言ってねぇだろ」
「「「え?」」」
「その前に周りにくっ付いてるゴミが邪魔だ、退けコラ」
「「「えっ」」」
バキボキと拳を握り骨を鳴らし、ざくりざくりと砂地を歩み進む様は般若の顔を背負った鬼のよう。
神田の腕っ節は身を以って知っている。
何故なら鍛錬の度に一度負かしてやろうと挑み、物の見事に返り討ちに合っているのは他ならぬファインダーである彼らなのだ。
「うわあ…なんですかこの地獄絵図」
「神田くん…亡者を狩るハンターみたい」
「寧ろ神田が亡者なんじゃない?あの場合」
千切っては投げ、千切っては投げ。
飛ばされた筋肉の塊が一つ、また一つと海に放られ沈んでいく。
ファインダーの群をあっという間に切り崩し破壊する鬼は、リナリーの言う通り殺気だった亡者にしか見えない。
巻き込まれるのは勘弁とばかりに傍観者に回るアレン達の耳に、空しく彼らの悲鳴は木霊した。
「お、鬼ぃ!ひでブッ!」
「退け」
最後の砦である男を足蹴にする神田に、雪を守る肉の壁は消えてしまった。
間を阻むものはない。
今度こそ神田の手は、竦む雪の腕を掴み取った。
反射で払おうと雪が腕を捩る前に、強い力で引き寄せる。
「わ…っ!?」
かと思えば、軽々と米俵のように肩にその身を担ぎ上げた。
「な、何…!嫌!やだ!下ろしてよ!」
「何もしねぇよ、大人しくしてろ」
「既に何かしてるでしょ!?私はユウなんか知らな──」
「悪かった」
肩の上で暴れていた雪の動きが止まる。
目線は合わずとも、確かにそれは自分に向けられた神田の謝罪だった。
「お前の話を聞かなかったのは俺だ。今度はちゃんと聞く」
「……嘘」
「わざわざ嘘なんざつく必要あんのかよ、この状況で」
「………本当に?」
「ああ」
僅かに斜めに傾けた神田の顔から注ぐ、強い視線は雪へと絡む。
やっと重なった漆黒の眼には、戯言などの雰囲気は微塵もない。
基より神田は嘘などつかない性格。
誰よりも飾らない本音を口にするからこそ、敵を作ることも多いのだ。