第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
触れたことも間近で見たこともある、白い二つの膨らみ。
だからと言って、上半身を晒した想い人を冷静に見られる訳もない。
「み、水着は…っ?」
椛から目を逸らしつつ慌てて弾け飛んだであろう水着を探せば、眩い白は奇跡的に見つかった。
ぱしゃりと跳ねる、優雅な流れで。
「あれ…イルカ?」
水面の海水を飛ばしたのは、細長い大きな影だった。
鮫とは異なる、つるりとした皮膚に先端が丸みを帯びた可愛らしい口元。
知性のありそうな粒らな瞳を持つ、海の哺乳類生物。
「わあっこんな近くで見られるなんて凄いねっ」
群でやって来ていたのか、数匹のイルカが水面に顔を出し背鰭を揺らす。
思わず今の状況下も忘れ魅入ってしまう二人の前を、優雅に泳ぎ去っていく。
「「あ」」
大きな尾鰭に、真白な水着を引っ掛けたまま。
「待って!」
慌ててアレンが追い掛けるも、足も着かない海の中。
相手のフィールドである以上追い付くことなどできず、あっという間にイルカの姿は小さくなってしまった。
「ど、どうしよう〜…」
更に顔を赤らめる椛に、アレンもどうしたものかと頭を悩ませた。
此処に着替えの服はない。
ビーチの隅に設置した方舟を通ればすぐに教団に帰り着くが、その為には大勢の団員の前を通らなければいならない。
水着で隠していても注目度の高かった豊かな彼女の胸から、男の目を逸らさせる方法など無いに等しい。
「どうしたであるか?」
「わーっ!来たら駄目です!」
その場から動かない二人に異変を感じたのか、クロウリーが近付こうとする。
途端に声を荒げるアレンに、細い彼の切れ目が瞬いた。
「あ、アレン?」
「椛とアレンの心拍数が異常に速くなっているが…何かあったのか?」
「っ!なんでもない!なんでもないからマリも来ないで下さい!」
「ど、どうしたんスか一体」
「さぁ、急にアレンが騒ぎ出して…大丈夫?」
「! 雪さん!」
「何?」
「雪さんなら良いです!来て下さい!」
「はい?」
きょとんと目を丸くし自身を指差せば、ぶんぶんと何度も頷かれる。
まさか名指しされるとは。
それでも明らかに普段と違うアレンの様子に、雪も大人しく従うことにした。