第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
目の前に広がる急な角度の滑り台と真っ青な世界に、思わず椛は目の前のアレンの体にしがみ付いた。
「あ、アレンくんっ?まさかこのまま…っ」
「はい。落ちます」
「落ちるって言っちゃ駄目!」
この場で聞くには一番怖い単語ではなかろうか。
青褪める椛とは正反対に、椛の腰を抱いたままアレンはにこやかに笑いかけた。
「大丈夫、怖くない。僕が離しませんから」
「こ、怖がってなんか…」
「うん。僕だけを見てて」
「…アレンくん、凄い笑顔」
「だって楽しくって」
振り返れば一度も経験したことがなかった。
真夏のビーチで遊び尽くしたり、それを共に味わってくれた者などいない。
だからこそ笑顔は尽きないのだ。
「…アレンくんが楽しいなら…いいよ」
そんなアレンを見てしまえば強くは言えない。
諦めに似た僅かな笑顔を椛は返した。
アレンもまた、椛がこの場を怖がっていることはわかっていた。
それでも文句一つ言わずこうして付き合ってくれるのだから、いじらしくて愛おしい。
「…アレンくん?」
ふわりとアレンの体に浮かび上がったのは、イノセンスである真っ白なマント。
風もなく浮かびながら、アレンと椛の体を包み込む。
「言ったでしょ?これで椛は僕から離れられませんね」
二人を包むようにして巻き付くマントは、アレンの笑顔のような優しい束縛だった。
激しく打ち鳴らしていた胸の鼓動が、自然と落ち着いていく。
恐怖を感じていた心が薄れていく。
笑顔一つでこんなにも安心感を与えてくれる人は、きっとアレン以外にはいないだろう。
「…じゃあ、離さないでね」
「勿論」
つられて椛にも笑みが浮かぶ。
見慣れた優しいその笑顔に安堵しつつ、アレンは僅かに椛を抱く腕に力を込めた。
「行きますよ」
「う、うん」
「そうそう。ダブルはもう少し精度をアップしておいたから。楽しんでね~」
「「え?」」
ざぷん、と滑り台を流れる波にアレンが身を任せた直後、のほほんと見送るティエドールが助言する。
助言というよりは小さな爆弾。
初耳だと椛がぎょっとする最中、二人の体は一気に降下した。