第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「大丈夫か?雪」
「うん。高さは平気」
普段ファインダーとして神田との任務に同行することの多い雪にとって、荒い土地もAKUMAの奇襲も日常茶飯事のようなもの。
それに比べれば、ただ高いだけのウォータースライダーなど危険は無いに等しい。
体を包み込むような造りの滑り台となっている為、途中で宙に放り出されることもないだろう。
「でも…む、無理はしない方が…いいっスよ…」
マリに続きチャオジーも心配そうな面持ちを見せれば、雪は嬉しそうに振り返った。
「ありがとう。なら怪我したらチャオジーに手当て頼もうかな」
「そ、そんな笑顔で言うことじゃ…っ」
「じゃあ一番、月城雪!いきまーすっ」
「あっ!」
高らかに挙手しての宣言。
躊躇することなく、下の海から汲み上げられている海水と共に雪は滑り台の流れに乗った。
速度はあっという間に加速し、雪の姿は忽ちにビーチの団員達と同じ豆粒サイズへと変わっていく。
時間にすると一分もなかっただろう。
滑り台は水面の数メートル上で途切れており、そこからスリップするような勢いで雪はどぼん!と海原へ着地した。
深く沈む体に、ごぼりごぼりと口から吐き出す空気で視界が遮られる。
ハラハラとチャオジーが見守る中、やがて水面に一つの影が浮き上がった。
「っぷは!」
勢いよく水面に顔を出したのは、紛れもない雪。
「だ、大丈夫っスか…!」
「楽しーよー!チャオジーもおいでー!」
片手を振り笑顔で呼ぶ雪に、仄かにチャオジーの頬が染まる。
しかし我に返るように慌てて首を横に振ると、べちべちと自分の頬を叩いた。
教団で働きながらノアであることを隠していた雪には、嫌悪感に似た思いを抱いていたはずだ。
その笑顔に一瞬でも絆されるとは何事か、と。
「………」
「神田、顔怖い」
そして此処にも、嫌悪感丸出しのような顔をした者が一人。
パラソルの下から出て来ようとしない神田を冷ややかに見つめるはリナリー。
しかし幼馴染に忠告されようとも、神田の眉間の皺が消えることはなかった。