第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「わぁ、これ可愛い」
足首しか浸からない浅瀬で、椛は夢中になって透明な水面の中を覗いていた。
差し込んだ手が白い砂浜から拾い上げるのは、色とりどりの貝殻。
平たいものや巻き貝のもの、様々な形の鮮やかな貝殻は見ていて飽きることがない。
夢中になって探していれば、椛の腕の中は沢山の貝殻で埋まっていた。
「それ全部、持って帰るであるか?」
「うん。写真立てとかアクセサリーとかに使おうかなって」
「成程。夏らしいであるな」
「きっと可愛いと思うの。こうやって瓶に詰めるだけでも、飾れば綺麗でしょ?」
大きな支柱の瓶に詰め込めば、透明な硝子に光が反射してきらきらと水滴が煌く。
まるで宝物のように瓶を抱く椛の嬉しそうな様は、見ているクロウリーも笑顔となる。
「椛は女の子らしいであるな」
「そう、かな?」
「である。アレンもそう思うであろう?」
「………」
「アレン?」
一緒に浅瀬でさざ波を満喫していたはずのアレンの返答がない。
離れてしまったのかと振り返ったクロウリーの目に、確かにアレンの姿はあった。
ただし背を向けて、何かをじっと見つめている。
「アレンくん?」
「どうしたであるか?」
二人で声を掛ければ、微動だにしなかったアレンの体が動いた。
ぱっと振り返った顔は満面の笑顔。
「椛!クロウリー!あれ!」
普段よく見かける優しい笑顔ではない、年相応な少年らしいキラキラと目を輝かせた顔。
弾む声で指差す先には、凡そ海にはないはずであろうものが存在していた。
「なぁに、あれ」
「植物、であるか…?」
アクアブルーの水面から突き出している、巨大な植物の蔓のようなもの。
それは幾重も絡み付き、太く太く空へと向かって突き上がっていた。
まるで"ジャックと豆の木"に出てくる巨大な空豆の蔓のようだ。
しかし巨人の世界へと繋がる蔓のように、真っ直ぐ一直線にだけ伸びているのではない。
高い空の上で左右に腕を広げるように、なだらかな坂を作った蔓が海へと続いている。
まるで自然のウォータースライダーの如く。
「僕、あれ乗りたいです!」
「え?」
「あれは乗り物であるのか?」
どうやらアレンの目には、紛うことなき遊具に見えたらしい。