第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「だから、酔ってねーって」
しっしっと払う南の手首を、鬱陶しそうに伸びたラビの手が掴む。
「オレは他の連中みたく忘れたりしねーし。見たもんは全部憶えてる」
ほんのりと赤い顔は酔った科学班仲間と同じもの。
しかし隻眼に灯る光は、真剣な面持ちのラビの時と変わらないものだ。
ラビの言う通り、ブックマンJr.と呼ばれる彼の頭は詰め込んだ情報を鮮明に記憶する能力を備えている。
「南のことだって、ぜってー忘れてやんねぇ」
翡翠色の隻眼がしかと南の姿を捉える。
射抜くような目に見つめられ、不意にも胸が騒いだ。
「ラビ──」
「だからオレも構って…!」
「…はい?」
それも束の間。
ヘナヘナと下がるオレンジ頭に拍子抜けしてしまった。
「なー南ー、折角海に来てんだし遊ぼーさー、なーなー」
「やっぱり酔ってるんじゃ…」
「酔ってねぇって。遊びに誘ってるだけだろ?」
「鮫がいるかもしれない海に?」
「…何かあればオレが助けるさ」
「いや何かある時点でアウトだから」
「んだよー。ならあっちの入り江に行こうさ、青の洞窟に似てる所見つけたんだって」
「青の洞窟?」
「知らねーの?イタリアとかギリシャにある海食洞っての。太陽光の反射で海全体が真っ青に光ってる洞窟なんさ」
「へぇー…それはちょっと興味あるかも…」
「だろっ?」
興味を示した南に、ここぞとばかりにラビが食い付く。
両手を上から包むようにラビの手に握られ、ベンチから乗り出した満面の笑みがずずいと迫った。
「結構神秘的な場所なんだって、絶対見て損はねぇからさ!行こうぜっ」
「んー…」
誘いに迷った暗い瞳は彷徨った挙句、やがて止まる。
「リーバー班長も行くなら」
「俺?」
「ちょい待ち」
止まった先にはきょとんと瞬くリーバーの姿。
思いも掛けない誘いだったのは、彼だけではなかった。
ラビもまた納得いかない顔で口を挟む。
誘ったのは南だけだったはずだ。