第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
ふにりと、唇に柔らかな感触。
それは確かに温かった。
「………」
「…っ」
「…はんひょ…?」
ふにりふにりと、唇に当たるは柔らかな皮膚。
しかしそれは南の唇と同じものではなく、被さるように押し付けられたリーバーの掌。
彼の手に口を塞がれているのは何故か。
目の前で彼が項垂れているのも何故か。
止まっていた空気が動き出せば、動かなかった南の体も機能する。
「リーバーはんひょう」
口を塞がれたままもう一度呼べば、やっとのことで項垂れていた顔は上がった。
ほんのりと赤い顔を渋めて、南越しに何かを見ている。
「…視線がな」
やがてぼそりと呟かれた言葉に、ようやく事の状況に南も気付いた。
察した途端に感じる、痛々しい程の視線。
恐る恐るベンチに座ったまま振り返れば、離れた場所でバイキングを楽しむ団員達が見えた。
各々手にアルコール類を持ち、豪勢な料理に齧り付く様は変わらない。
変わってはいないが、一つだけ違うことがある。
食い入るように、じぃっと穴が空きそうな程の視線を向けているのだ。
南とリーバー、ただ二人に。
「っ」
科学班全員に見られている立場を察すると、忽ち南の顔にも朱色が差した。
職場仲間の誰にもリーバーへの想いは告げていない。
彼らもまた二人の微妙な距離の関係など知らないはずだ。
面倒なところを見られてしまったのかもしれない。
何か弁解せねばと南は慌てて口を開いた。
「あ、あの…皆──」
「んッだよ!しねーのかよ!」
「へ?」
「チューだよチュー!しろよチュー!」
「するべきとこだったろー!今のは!」
「はんちょぉー!不甲斐ないっすよぉー!」
「…お前らな…」
やんやと煽る一同は茹で蛸のように赤い顔。
どう見ても悪酔いした面倒な連中でしかない。
「すっごい酔っ払ってる…」
「だな…」
「あれ、明日には二日酔いになってるパターンですよ」
「だな」
「それで全部すっからかんに忘れてるっていう…」
「だな。好都合だ」
「え?」
首を傾げて再びリーバーに向き直れば、寄せられていた大きな体が離れる気配。
「俺の気持ちがバレずに済んだ」