第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
まるで眩しい世界を見ているようだった。
いつもと違う世界なのは確かだ。
ただその中心に、彼女がいて心から笑っている。
ただそれだけで。
「…そうか」
ふとリーバーの口元が和らぐ。
「それなら俺にもわかる」
自然と伸びた手は、南の頭に触れていた。
いつものように一撫ですれば、彼女が照れてはにかむことを知っていたから。
それはいつもの光景なのに、いつもとは違う身形でほんのりと化粧を施した南の姿は、まるで違って見えた。
「確かに"格別"だ」
髪型を崩さぬようにと軽く触れていた手が、するりと滑り下りる。
「リーバー班長?」
「参った。格別過ぎて、目が離せないな」
「え、と…それは、その…褒めて、ます?」
「ああ」
おどおどとぎこちない声を発しながらも、迷わず頷くリーバーに南の頬がふにゃりと緩む。
「じゃあ、少しは女らしく見えました?」
職場ではとんと異性扱いをされない南に対して、リーバーもまた特別扱いをしたことはない。
職場で肩を並べれば同じ仲間同士。
しかし同等の存在として扱ってくれるリーバーのことを尊敬もしていたが、異性として見て貰えることも純粋に嬉しくて。
「…ああ」
リーバーの指の背が頬を撫で、艷やかな唇に微かに触れる。
いつもとは違う手に南が目を瞬けば、透き通るようなグレーの瞳と重なった。
(あ…綺麗)
アクアブルーの水面と同じ。
目を奪われて、離せない。
ぽたりと、缶に付いた水滴が足元へと落ちる。
冷たい雫は肌を刺激するのに、南は身動き一つ取れなかった。
絡んだ視線が、唇に触れる指が、体に熱を生む。
(指先…熱い、)
骨張った指の熱さも、瞳の透き通る色も、初めて知った気がした。
太陽の光が遮られる。
目の前で影を作ったのは、他でもないリーバーの体。
互いの間を遮るものなど何もない。
そうして身動きできない南の唇に───
それが、触れた。