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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第13章 ※◇◆Summer to spend with you.



「んんん〜!美味しいっ」

「美味いなぁ」

「贅沢ですねぇ、こんな時間」

「確かに」



木目のベンチに並んで座り、青々とした空を見上げる。
海と同じアクアブルーの延々と続く空には、大きな入道雲。
ゆっくりと動きを変えて流れていく様を見ていると、雄大なものに包まれている感覚がする。

いつも時間に追われ、一分一秒を駆けて仕事をしている身であるからこそ、そんな時間が凄く贅沢なものに感じた。



「…でもいいのか?南」

「何がですか?」

「充分手伝ってくれたし、食料の心配もなくなったし。飯番はもうしなくていい。南の好きにしていいんだぞ」

「? してますよ、好きに」

「これで、か?」

「これでって?」



折角水着まで用意したのに、海にも入らず傍で手伝いや気遣いをしてくれる南には多少なりとも罪悪感が湧く。
自分は構わず楽しんで来いと背を押せば、南はきょとんと目を瞬いた。



「楽しんでますよ、私は」

「俺と酒飲んでるだけだぞ」

「お酒だけじゃないですよ。皆で捕った魚介類も頂いてます」

「そういう意味じゃなくてだな…」

「それでいいじゃないですか」



リーバーが何を言わんとしているのか、彼の心はわかりきっていた。
眼下には目を奪われるような美しいビーチ。
それを堪能せずしてどうすると言いたいのだろう。



(堪能はしてるんだけどな)



水滴の付いた缶を両手に、足元へと目線を落とす。



「さっき食べたハマグリと今飲んでるビールは、教団でだって食べられるものなのに、いつもより美味しく感じるじゃないですか」

「外で食べると格別ってやつか」

「そう、それと一緒ですよ」



キラキラと煌く白い砂地。
目を奪われる程の澄み切った海。
吸い込まれそうな青々とした空。



「いつもとは違う場所で、こうして班長と仕事以外の時間を過ごせることは、私には"格別"なんです」



落としていた目線を上げて、青い空を仰ぐ。
瞼を閉じても感じる太陽の光は、暗闇をも照らすようだ。
その場にいるだけでも輝きをくれる、それだけで充分煌めいているもの。



「だから、凄く楽しいです」



ゆっくりと瞳を開けば、広がる別世界。
そんな場所で、好きな人の隣に並んでいられる。
それだけで。

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