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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第13章 ※◇◆Summer to spend with you.



アレンと椛に手を引かれ、海へとよろけながらも駆けていく。
そんなクロウリーの姿を目にして、雪は頬を緩ませた。
なんとも微笑ましい光景か。

すると不意にその視界を遮られた。
遮ったものは、パラソルの前に立つ一人の人物。
ビニールシートの上から動くことなく座ったまま見上げれば、予想していた人物が其処にいた。
皆海パン姿の中で、唯一それを身に付けていない人物。



「お前はそこから出て来ないつもりかよ」

「海に行ったって、ユウはいないでしょ?」



ジーンズに白シャツと、凡そ海に入る気のない姿の神田ユウ。



「折角涼める場所に来たのに、なんで海に入らないの」

「面倒なもんに絡まれるだろ、絶対」

「それは否定できないけど…じゃあ隣、座る?」



ぽんぽんと隣のビニールシートを手で促せば、神田はすんなりと腰を下ろした。
見渡す限りアクアブルーの美しい海には、これまた見渡す限りの団員達。
確かに神田の言う通り、海に入れば絡まれない保証はない。
人と馴れ合うことを嫌う神田ならば尤もな行動だ。

ちらりと横顔を伺えば、ビーチに向けた顔は僅かに眉間に皺を作り上げている。
額には数粒の汗。
重力に従って皮膚の上を流れ落ちていく様は、見ている側も暑くなる。



(暑いなら着替えればいいのに…頑固なんだから)



言っても跳ね返されるだけだろう、わかりきった応えにわざわざ荒立てる気もない。

鬱陶しそうに肩に掛かる髪束を片手で払う神田は見慣れたポニーテールだが、首の後ろで揺れる髪房も煩わしいのだろう。
このままでは更に眉間に皺が増えていくばかりだと、見兼ねた雪は持ち込んでいた荷物に手を伸ばした。



「ユウ、頭貸して」

「…なんだよ」

「その髪、まとめてあげるから。後ろに流してるだけじゃ暑いでしょ」

「…また遊ぶつもりじゃないだろうな…」

「しないよ、こんな所で。ほら、動かないで」



以前、好きに神田の髪の毛を弄らせて貰った時はつい出来心で編み込みリボンのレディースヘアーにしてしまった。
随分とよく似合っていたが、この場でそんな髪型をすれば団員達のネタになるだろう。
流石にそれは可哀想だと腹の中で止める。

神田が可哀想な訳ではない。
彼の怒りを喰らって暴挙を振るわれるであろう、団員達が、だ。

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