第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「えへへ、皆ありがとう」
ふにゃりと嬉しそうに笑顔を浮かべて、ぺこりと律儀に頭を下げる。
普段ならば可愛げのある姿だと頬を緩ませる程度だが、今日は違った。
「あ、もうちょい…!」
「おぅふ!」
「果実が零れ落ちる…!」
傾く体に覗く谷間。
そこに覗く欲の目複数。
どふんっ!
の上に降り注いだのは、突如巻き上げられた砂の雨だった。
「げふっ!」
「な、なんだァ急に…!」
「目に砂が…ッ」
「ぁ、アレン…」
慌てふためく団員達の中で、クロウリーだけが状況を理解していた。
恐る恐る声を掛ける先には、左手のイノセンスを発動させている笑顔の少年。
「すみません、暑さでなんだか朦朧として手が滑ったみたいで。皆顔洗ってきた方がいいですよ。海はあっちです」
「手が滑ってイノセンス発動すんのか?」
「ぺっぺっ口にまで入っちまった…!」
「おいアレン何すん」
「海はあっちです」
「それはわかっ」
「あっちです」
「………」
「あっち」
砂粒で遮られた目を向ければ、よくは見えないが波を指差すアレンが立っているのはわかる。
それよりも聴覚を刺激してくる声は普段と変わらぬ穏やかなのに、明らかに普段とは違う声色。
「あっちですよ(早く行け)」
「「「………」」」
強制されている気になるのは何故だろうか。
にっこりと笑顔で指差すアレンに、逆らってはいけない気がした。