第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「大丈夫かい!?リナリー、しっかり…!」
「兄さん…ごめん、少しふらついただけだから…」
「少しじゃないだろう…!もう君は休むんだっ」
「でも、皆は仕事してるのに…こんな暑い中で…放っておくことなんて、できないよ」
倒れた体を抱き上げるコムイを見上げて、リナリーは儚くとも笑ってみせた。
その健気な言葉にその場にいた全員が目元を潤ませる。
なんて優しい少女なのか。
少女の姿をした天使なのか。
「それに…私が何か力になれれば、兄さんも少しは早く休めるかもしれないでしょ?」
「リナリー…」
「早く兄さんに体を休めて欲しいの…心配だから」
黒真珠のような瞳で見上げて親身に乞うてくる美少女に、抗える兄がいようか。
「わかった、休もう」
「「「おい」」」
いるはずがない。
即答で頷くコムイに周りから鋭い視線が突き刺さる。
何を一人で勝手に決め付けているのだろうか。
教団の最高責任者という肩書を持ち無茶難題も通そうとする性格だからこそ、実現しそうで恐ろしい。
一人だけ勝手に休日を取り、この場から逃げ出すなど言語道断。
「何阿呆なこと言ってんスか?室長。その沸いた頭叩き割りますよ」
暑さでやられたのが半分、コムリンⅣという厄介な物を生み出したことへの鬱憤が半分。
否、コムイ自身への憤怒が大半だろう、青筋を額に浮かべにっこりと笑いかけてくるリーバーの右手は、既に握り拳を作り上げている。
「わーリーバーくんこわーい。リナリーのお願いなんだよ?僕が断れると思ってるのかい」
「半分あんたの欲望でしょうが。叩き割っていいんですかいいんですね」
「待って待って。何も僕だけ休むなんて言ってないデショ」
「リナリーも一緒に、でしょう。あんたの考えることくらいわかる。リナリーは休ませるにしても、室長は──」
「全員さ」
「……は?」
「だから、全員。こんな熱帯地みたいな所で誰もまともに頭なんて働きやしないだろう?そのうち皆倒れるよ。リーバーくんも含めてね」
だから、と言って立ち上がるコムイの眼鏡がキラリと光る。
「今日は皆定休日にしよう」
それは有無言わさぬ決定事項だった。