第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「…あっぢぃ…」
「言わないで。余計暑くなるだけだから」
「これが言わずにいられるかってんさ…こんな所にこもってたら死ぬって…なぁ、南」
「言わないで。余計死ぬ…」
後ろ向きで椅子に座り、背凭れに乗せた腕にがくりと頭を項垂れているのは、多少の暑さでも平気な顔をしているはずのラビ。
それでもむわりとこもる室内の暑さには限界だったのか、片手に持つ団扇も仰ぐ気力さえ見せていない。
彼の死ぬ気の声に同じに死ぬ気の声で応えたのは、デスクで突っ伏し気味にペンを握り締めている科学班の南だった。
此処は黒の教団本部科学班研究所。
南だけではない、あちらこちらから倒れ伏せた白衣の屍から微かな呻き声が上がっている。
「し…しぬ…」
「水…みず、くれ…水…」
「蜃気楼が見える…かぁちゃん…」
「馬鹿お前そりゃ…走馬灯、だ…ぞ…」
事務・会議棟に設置されている研究室は、広さは充分にあるものの山積みになった文献や薬品で溢れている。
視界を狭くする空間は密度も高く感じられ、空調機器の動いていない研究所はむわりとこもった熱を生み出していた。
床に倒れている屍の中に、そのうち南も仲間入りしてしまうだろう。
それでもデスクに齧り付き仕事をしている様は、呆れを通り越して感心さえする。
そしてそれ以上に、ラビにとっては心配なのだ。
「なぁってば、南。少し休憩しろって。マジで熱中症で死ぬさ、このままだと」
「そんなこと言ったって、発電機も直ってないのに…」
項垂れる頭をどうにか持ち上げて、床を蹴りキコキコと車輪を回して南のデスクに椅子を寄せる。
そんなラビの思いも虚しく、南が力なく首を横に振った時だった。
ばたん!と床に落ちる衝撃音。
また誰かが倒れたのだろう、次の犠牲者は誰かと朧気な目を周りが向ける。
「っリナリー!?」
瞬間、カサカサの唇にコケた頬で壊れた発電機と向き合っていたコムイが悲鳴を上げた。
倒れたのは、必死に科学班の皆に栄養ドリンクを給仕し倒れた仲間の介抱にもあたっていたリナリーだったのだ。