第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
「…アレンくん…?」
「おはよう、椛」
眠たそうに瞼を擦りながら、これまた眠たそうな舌足らずな声で呼ぶ。
そんな些細な椛の動作一つ一つが、愛らしくて堪らない。
いつも寝起きに感じてたことなのに、今日は一層その思いが増してる気がした。
「ん…おはよ」
ふぁと小さな欠伸を洩らして、へにゃりと笑う。
無防備過ぎる椛の朝の顔。
それもいつも僕の胸を鷲掴みにしていくものだったのに…なんだろう、この胸の高鳴りは。
凄くドキドキする。
いつものようで、なんだかいつもとは違う朝。
「いま、何時…」
「まだ起きるには早い時間帯です。…眠たかったら、まだ寝てていいよ」
「でも、アレンくん、トレーニング…」
「朝ご飯を食べた後にします。だから、もう少しこうしていよう?」
「ぁ」
いつものようでいつもと違う。
そんな椛をまだ手放したくなくて、布団の下で無防備な体を抱き寄せた。
腕の中に閉じ込めて、僕だけの椛だと実感する。
「アレンくん…」
「僕はまだこうしていたいから。我儘、言っていい?」
「…ぅん」
ほんのりと色付いた頬を寄せてくる。
可愛い人の唇に、そっと眠りを促す口付けを落とした。
くすりと微笑んだ後、本当にまだ眠たかったんだろう、椛は再び眠りに落ちた。
すぅすぅと規則正しい寝息を立てる顔は、安心しきったようにも見える。
…椛の為に余裕ある大人でいようとしたけど、無様であったって本音を伝えることの方が椛の為になるんだって、昨夜強く実感した。
同時に、本当に僕の情けない姿も目の当たりにしてしまったけど。
でも、そんな僕が変わらず好きなんだと椛は言ってくれたから。
…頑張ろう。
今の僕でも椛は認めてくれたけど、僕自身が成長したいと思ったから。
これだけ手放せない女性(ひと)を見つけたんだ、傍にいるだけじゃなく、守れるように。
共に隣で、その手を握って歩いていけるように。
パタパタ…
静かな決意を固めていると、聞き慣れた羽音が耳に入ってきた。
視線を変えれば、ドアの隙間を器用に開けて入り込んでくるティムの姿。