第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
「おかえり、ティム」
「ガァ」
小さな声でひと鳴きした後、金色の体が僕と椛の間に入り込もうとする。
椛が僕の部屋で寝泊まりする時、ティムの定位置は決まっていつも其処になっていた。
「今日は待ってティム」
「?」
「ごめんよ。でも…椛は僕の、だから」
いつも気に止めていなかったけど、この時ばかりは止めてしまった。
ティムが間に入り込めば、椛の体が録画されてしまうだろうし。
それに、まだ僕だけの椛を実感していたかったから。
…本当、独占欲強いなぁ僕。
苦笑交じりにやんわりと伝えれば、ティムは抵抗しなかった。
椛のことが大好きなのは知っていたから、歯向かわれるかと思ってたけど。
…昨夜も散々噛み付かれたし。
「♪」
「なんだかご機嫌だな?ティム」
「ガ♪」
よくわからないけど、ティムはティムで嬉しいことがあったらしい。
ちょこんと枕に座り込んで尻尾を揺らす姿は、ご機嫌な証拠だ。
追い出したことに少し悪いことしたかな、なんて思ってたから、ティムの姿を見ていたらほっとした。
なんだか幸せそうだし、それならそれでいいか。
伝わってくるティムの感情に、僕も自然と笑顔になる。
「メリークリスマス、ティム」
「ガァ」
過ぎ去ったけれど、過ぎ去っていない。
それは僕らの心に残るもの。
愛に満ち溢れて伝わる、形にはないものだ。
形にはないけれど、何にも勝る贈り物。
見えない幸福感に包まれながら、再び目を閉じる。
伝わる温もりを胸に、僕もやがて眠りに落ちた。
クリスマスを迎える朝と同じように。
目覚めたら鮮やかに待ち受けているだろう、目の前の愛しいひとを想って。
私たちが毎日クリスマスを生きるとき、
地上の平和は訪れる。
(ヘレン・スタイナー・ライス)
fin.