第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
「クリスマスの起源は勿論、イエス・キリストの降誕祭だけど、それだけを祝福する人なんて早々いないでしょ」
「それは…まぁ」
「家族や友人や恋人や、そういう大切だと思える人と共に過ごして。美味しいご馳走を食べたり、贈り物を捧げたり。そうして一緒の時間を共有するから、特別な日だって思えるんじゃないかな。…そう、何処かの偉人さんも言ってたような…」
「誰さそれ」
「うーん、誰だったかな…とにかく、いつも仕事をしてる私にはクリスマスなんて日常と然程変わらないの。科学班の皆と、ちょっとお祝いしてる程度だし…いつもの飲み会の延長戦上みたいなものかなぁ」
「ふーん。南の言ってることはわかったけど、それとさっきの言葉はなんの繋がりがあるんさ?」
「…だから、私には今日は特別な日なの」
よし、と小さく呟いて握っていたハンカチを離す。
ほとんど生クリームが撤去されたラビの顔は、多少髪先に濡れた跡が残るものの、はっきりと表情が見て取れる程になっていた。
「一緒にケーキを食べて、聖夜を過ごして、仕事もしたけど、他愛ない話だって沢山したし。こうして笑わせてももらったし。それはいつも私が過ごしていたクリスマスとは、全然違うものだよ」
だから、と呟いて。
一歩下がった南は、ラビの全身をその瞳に映すようにしてふわりと笑った。
「私には昨日も今日も、どっちも充分に特別な日」
「……それって…」
単なる祝い事だけでは、飲み会の延長戦だと言っていた。
そんな南が、ラビと過ごした二日間を特別だと言う。
先程彼女が口にしていた言葉一文一句が、鮮明にラビの頭に蘇る。
"大切だと思える人と共に過ごす"ことに意味があると、そう言っていた。
南にとって科学班の者達はかけがえのない仲間だろう。
それこそ"大切"の部類に入る者達だ。
しかし彼らと祝い合うことよりも、ラビと残業混じりながらも過ごすことが特別だと言うのならば。
「………(それって、)」
仲間とは違う、彼女にとっての"大切"の部類に自分は入っているのかもしれない。
そう思考が行き着くと同時に、ラビは言葉を詰まらせた。