第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
開いた瞼の先。
見えたのは、覆い被さる黒い影。
ぼんやりと焦点の合わないまま目を凝らせば、やがて南の目には見知った人物の顔が映った。
「ぁ…起きた、さ?」
真上から見下ろしてくるは、燃えるような赤毛の青年。
彼の背後には、高い高い書庫室の天井。
そして己の背中には固い床の感触。
その状況は覚えがあった。
組み敷くように被さった体に、逃げ場を失くすように体の両側に着いた手。
それは、あの日あの時。
深夜に起こった、とある出来事。
「…南?」
凝らすように細められていた南の目が、大きく見開く。
すぐ目の前にあるラビの顔を凝視したまま、ぴくりとも動かない。
その姿にラビも焦りを覚えた。
照れた様子などは一切見えない。
もしや怖がらせてしまったのだろうか。
「大丈夫、さ?南」
「………」
「ご…ごめん。っと、これには理由が…っ本の山が崩れてだな、南を助けようと咄嗟にっつぅか…」
「………」
「だからわざとじゃないっつぅか…その、…南?」
「………」
「おーい、南さーん」
「………」
「ご…ごめんて…だから無言はやめブふッ!」
バシンッ!
急に響いた強打音は、ラビの横っ面を吹き飛ばした。
ぽかんと拍子抜けたようにも見える固まった表情のまま、南の手が平手打ちを喰らわしたのだ。
「いってぇ…!」
「…何、やって、んの」
頬を押さえて悶えるラビの体の下から、ずりずりと這い出ながらやっとのことで反応を示した南は、戸惑うような口調だった。
辿々しく投げ掛けながら、胸元を押さえる。
「だから、本の山が崩れたんだって…南が積んだやつ!」
「山?…あ」
そこでやっと状況を理解したのか、周りで散乱する本を見渡し南はほぅと息を吐いた。
「なんだ…悪質な夢かと思った…」
「オレ悪夢扱い!?」
「はぁ…吃驚した」
未だに胸を押さえたまま、深々と呼吸を繰り返す。
そんな南の姿に、赤い頬を押さえて抗議を起こしていたラビの勢いも止まる。
悪夢と見間違える程に、やはり彼女にはトラウマになってしまっているのだろうか。
そう思えば下手に否定もできない。