第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
「───っ」
ラビの唇が触れた先は、ふっくらと艶を纏った南の唇ではなかった。
その唇の上にちょこんと乗った、小さな生クリームの山。
そこに器用にぱくりと食らい付いたかと思えば、さっと顔を離す。
(起きてねぇな。ヨシ)
赤い顔と口を隠すように、両手で再び顔面を覆いながらの寝顔の観察。
変わらずすやすやと寝息を立てている南は起きる素振りなどない。
キスは、ラビの自室で無理矢理に奪った時からもうしないと決めていたことだ。
寝込みを襲うようなことも、同じこと。
次にその唇に触れられるのは、彼女と同じ想いを共有し合えた時がいい。
「(でもなぁ…)…生殺しさ…」
しかし欲は抑え付けているだけで、消えた訳ではないのだ。
こうも愛らしいと思える無防備な顔を晒されれば、抑制も難しいというもので。
(そ、ソフトなやつなら…大丈夫じゃね?)
思わず邪な思いが浮かぶ。
無理矢理に奪うようなキスでなければ、接物など欧米では挨拶のようなもの(と言い聞かせる)。
一瞬触れるくらいなら南のカウントには入らないのではなかろうか。
「夏祭りの時だってキスしても怒ってなかったし…南の仕事にも付き合ってやったし。ご褒美、貰ったって…(いい、よな)」
ドキドキと鼓動が煩い。
半ば自分に言い聞かせるように頷きながら、再度生唾を呑み込む。
肌に落ちる長い睫毛。
ふっくらと赤みを帯びた小さな唇。
柔らかそうな肌一つにしたって、間近でついつい見ていたくなる。
吸い込まれるように再び顔を寄せれば、すぅすぅと紡ぐ吐息が顔に掛かる。
それさえも鼓動を速める要因にしかならなくて、ラビは数秒だけ息を止めた───
「ガァッ」
「ッ!?!!!」
瞬間、真上から降ってきた鳴き声にびくんと体は跳び上がった。
声にならない悲鳴を上げて、反射的に跳んだラビの体が傍にあった高い本の山にぶつかる。
「げぇ!」
些細なバランスで積み上がっていた本のタワーがぐらりと揺れれば、ラビの青い顔へと影を作る。
途端にバラバラと落ちてくる大量の本に、その場は小さな埃煙が立ち上がった。
ばさ、と最後の本が床に散乱した頃、
「ん…っ?」
やっと重い南の目が開いた。