第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
「(マジでクリスマス潰れたさ)本気で仕事漬けするなんてあり得ねぇ…科学班はアホだろ」
仕事人間なことは重々承知していた。
だからこそ科学班の研究室を後にしても自室には戻らず、残業として書庫室に直行する彼女に付き合ったのだ。
しかしまさか徹夜する羽目になろうとは。
始終意中の女性の隣にいられたのに、色気の"い"の字も垣間見えなかったクリスマス。
なんと虚しいものか。
「ほーんと…南はアホさ」
死んだ目を、隣でこれ見よがしに眠る南へと映せば、すやすやと心地良い寝息を立てている。
その手には小さなフォークが握られ、膝の上にはラビ持参の食べかけのショートケーキの皿。
口元には、ケーキを食べながら寝てしまったのだろう、生クリームまで付いてる始末。
「…アホ面満載」
科学者の威厳も何もない、なんとも間抜けな寝顔である。
「おい、起きろって南。寝かせてやりてぇけど、此処じゃ後々管理班に見つかったら怒られっから」
「すー」
「気持ち良さそうに寝やがってこの…ッ」
「むにゃ…ん」
「ッ…(ンな無防備な寝顔見せてくんなよ可愛いな畜生!)」
すやすやと眠る彼女に肩を貸したまま、両手で顔を隠した青年がぷるぷると震える姿はなんとも奇妙だ。
静かに積み上げられた本の上に着地したティムキャンピーには気付いていない様子。
顔を隠していた指の隙間から、ラビの目が眠る南を盗み見る。
口元に生クリームを付けた、それはそれは間抜けな寝顔なのに何故愛らしく見えてしまうのか。
そればかりは煩い胸の鼓動がそのままの答えだ。
「…っ」
ごくりと生唾を呑み込む。
そわそわと辺りを見渡したかと思えば、今一度眠る南を観察するように、じぃっと。
自分達以外には誰もいないと思っているのだろう。
まるで目に焼き付けるようにまじまじと南の寝顔を見つめるラビの顔が、自然と近付いた。
「すー…すー…」
すっかり熟睡している南は起きる素振りがない。
隣で肩を枕に眠り扱けている彼女の顔へは、首を捻れば簡単に埋まる距離。
生クリームが付いたまま半開きの唇へと、ラビの唇が誘われるように近付いた───
そして、触れた先は。