第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
(欲しいって…昨夜だってやったのに…)
顔に熱が宿る。
昨晩のことを思い起こさせながら、それでもこうも真っ直ぐに向けられた神田の言葉は簡単に跳ね返せないことを、雪はもう知っていた。
「じゃあ…すっごく優しくして。お姫様みたいに扱ってくれたら、全部あげる」
せめて最後の抗いにと、身を寄せ肌が触れ合う距離で問い掛ける。
吐息が漏れるような誘い掛ける雪の声色に、神田は眉を潜めるも嫌な顔はしなかった。
「姫って柄じゃねぇだろ」
「…だからなんでムード壊すかな…」
しかし真顔で返された言葉はある意味正論で、だからこそ現実に引き戻されるようでガクリと雪は肩を落とした。
柄ではないことなど重々承知している。
そんなこと言われなくてもわかっているというか今更ながら恥ずかしくなるのでわざわざ言わないで欲しい。
というのが切なる心境だ。
「もういいよ…普通で。別に逃げないから、普通にしよ。うん。普通ふつ」
「いや」
「?」
「自分で言ったんだろ」
ひらひらと力なく片手を振れば、その手をわしりと掴まれた。
上げた視界に映ったのは、恭しく手の甲に口付ける神田の姿。
「ゅ、ユウ?そんな柄にもないこと…」
「ならお互い様だな」
口元に雪の手を引き寄せたまま、口角を僅かに上げて笑う表情は、よく見る挑発的な笑みではない。
「甘ったるいと思えるくらい、うんと優しくしてやるよ」
優しい声に重なる優しい眼差し。
壊れ物に触れるかのように、大きな手が雪の身体に触れてくる。
思わず息を呑みながら、目の前の光景にくらりと頭が揺れるようだった。
(もう、充分、)
腰を抱かれ、長い指先が優しく顎を持ち上げる。
奪うようなキスではない。
優しく愛を紡ぐようなキスを前に、雪はそっと瞳を閉じた。
(甘いよ)
重なる二つの影を見守っていたのは、ドアの隙間に身を寄せた金色のゴーレムのみ。