第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
「ぅぷっ」
ぼすんと次に雪の尻が落ちたのはシーツの上。
些か乱暴にも見えるが、神田にしては優しい手つきのものだ。
「何───」
一体何かと雪が顔を上げれば、掛かったのは大きな影。
覆い被さるようにして同じくベッドに乗り上げてくる神田に、雪は動きを止めた。
「まだ朝飯には早いだろ。トレーニングを外すならもっぺん寝かせろ」
「寝るって…近くない?」
「いつものことだろ。何今更意識してんだよ」
シングルのベッドでいつも二人して寝る時は、必ずどこか体が触れ合っていたものだと言うのに。
今更ながら照れた姿を見せてくる雪の体の横に片手を付いて、神田ははんと笑った。
「それとも誘ってんのか」
「は?ないないない」
「全面拒否すんなテメェコラ」
「なんで私が怒られる側!?ガン付けないでよこの距離で!」
ドスの利いた声で至近距離から視線を射抜いてくる神田に、逃げようにも後ろは壁。
恐ろしいとばかりに両手で胸を押し返していた雪だったが、神田のその表情がむすりとしたものに変わると力を弱めた。
これはガンを付けているのではなく、拗ねているだけだ。
負の感情ばかりが目立つ神田だからこそわかり難いが、それでも長い月日を共に過ごしてきた。
これくらいの感情の違いなら雪にもわかる。
(もう。怖いんだか怖くないんだか…)
そんな神田の姿に絆されてしまう辺り、末期だなぁと頭の隅で思いながらも雪は諦めた両手の力を抜いた。
押し返していた手は、神田の背中へと控えめに回される。
「欲しいのはユウなんでしょ」
「…言うじゃねぇか」
「ユウが言ったら私も言」
「欲しい」
「早!そしてムードがない!」
「んだようっせぇな。言えつったのは雪だろ」
即答簡潔に述べる神田に雪が不服を申し立てれば、舌打ちを一つ。
「チッお前は俺のクリスマスプレゼントとやらだと昨日言ったよな」
「ぁ、あれは冗談──」
「今日がクリスマスの代わりなら、ちゃんと寄越せよ。ケーキなんざごめんだがお前の甘さなら欲しい」
「………」
射抜くような眼差しに捕らえられたまま。
迷う素振りなく告げられた言葉に、雪は口を閉じた。