第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
最小限の家具が配置された内装を見るところ、此処は神田の部屋なのだろう。
「アレンもユウと同じで鍛錬好きだし。もしかしたら朝早くから外で稽古してたのかもね」
「……出てくる」
「待て待て待て」
笑いながら言った雪の言葉は神田の気に触ったようで、即座に六幻を手に出て行こうとする肩を慌てて掴む。
いくら誰もが認める犬猿の仲であっても、こんな時まで意地を張られたら堪らない。
「今日は修練はお休みって約束したでしょ!クリスマスの代わりってッ」
「………」
肩を掴み止める雪の言葉に、神田は抵抗しそうになった声を押しとどめた。
確かに約束した。
任務とは言えクリスマスを満足に神田と過ごせなかった雪が、それはもう凹んでいたものだから。
ならば今日、その日を楽しめばいいだろうと。
行事日など気にも止めない神田ならではの提案である。
「だから…此処にいて」
最後の言葉はなんとも消え入りそうなものだった。
"傍に"ではなく"此処に"と言う。
いざという時程自己主張の下手な雪らしいものだ。
そんな目の前の彼女か、いるかもわからない気の触る少年か。
微かに吐息をつくと、神田は握っていた六幻を再び壁に立て掛けた。
「じゃあ付き合えよ。今日一日中」
「! も、勿論っ」
答えなどわかり切っている。
神田の応えに即座に顔を上げると、頷く雪の顔に笑みが混じる。
「あのね、任務先で見つけたクリスマス色の街があって。まだ見られるだろうし、お昼に出掛け…ぃっきし!」
「…はぁ」
嬉々として提案し出す雪の言葉は、己のくしゃみに遮られた。
今度は確かな溜息を一つ。
「そんな格好で窓なんざ開けるからだ。風邪引いたらクリスマスも何もねぇだろ」
「そうだけどティムが……あれ?ティム?」
先程まで雪の掌に乗っていた、あの金色のゴーレムの姿がない。
慌てて捜す雪とは反対に、神田は一切興味を示さなかった。
「どうせモヤシの所にでも帰ったんだろ。捜す必要ねぇよ」
「でも…」
「それより、」
「わッ」
それよりも神田の興味が向くものは目の前にある。
雪の胴回りに太い腕が回されたかと思えば、軽々と担ぎ上げられた。