第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
「でも、もう、過ぎちゃった…アレンくんの誕生日、終わっちゃった…」
くすんと小さく鼻を啜って涙声を零す。
「特別な日だったのに…」
そんな椛の思いは、いじらしいなぁと思う。
いじらしくて、愛らしい。
「終わってませんよ」
「……終わったよ?」
「ううん。まだ」
椛はもっと自覚するべきだと思う。
君の言葉が、姿が、想いが、どれだけ僕に影響力を与えているのか。
「椛が僕にお祝いの言葉をくれれば、僕にはその日が祝福の日になります」
クリスマスよりも何よりも、真っ先に僕の生誕を祝ってくれる椛の優しい想いがあれば。
───だから、
「もう一度言ってくれませんか?お祝いの言葉」
椛の口からなら、何度だって聞きたい。
あり触れた言葉なのに、椛が紡ぐだけで僕には凄く意味のある言葉に変わるから。
「んん…じゃあ。コホン」
改めるように咳を一つ。
ぱちりと瞬いた大きな二つの眼が、真っ直ぐに僕だけを映して微笑む。
「お誕生日、おめでとうアレンくん」
たったそれだけで、僕の世界は変わるんだ。
「…うん」
緩む頬は抑え切れそうにない。
代わりに椛の腕の中にいたティムを、そこから解放した。
「ティム」
名だけ呼べば、流石僕の相棒。
一度だけ椛に擦り寄ると、尾で器用にドアノブを回してあっさりと部屋の外へと飛び去った。
「何処行ったの?ティム」
「夜のお散歩じゃないですか?」
「お散歩って…」
「だって此処にいたらお邪魔虫になっちゃいますし」
「なん──」
なんで?と問い掛けるつもりだったんだろう。
その言葉は、椛の口から全て吐き出される前に引っ込んだ。
きっと意味に気付いたから。
その証拠に、椛の頬はじんわりと熱を帯びていて赤い。
触れなくても鼓動の速さが伝わってきそうな気がする。
「今度こそ邪魔するものは何もないから…僕の誕生日に、僕の欲しいものを貰ってもいいですか?」
そっと目の前の体を抱き寄せる。
返事はなかったけれど、赤い顔のまま頷く椛に迷いは見られない。
その反応で、僕には充分だった。